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「ありがとう」と言ってはいけないとき
「ありがとう」を言ってはいけないときがあります。
「本日は、皆さんお忙しい中お集りいただき、ありがとうございます。では、
調達・購買私塾を始めたいと思います」
私も講師として出席している調達・購買私塾が開始される瞬間の一コマ。最
近、一般的な冒頭の挨拶が、なぜかしっくりと腑に落ちなくなっています。
事実、自分が講義を始める際には「ありがとうございます」とはいわなくな
ってますし、他の講師にもすくなくとも私の考えだけは伝えようと思ってい
ます。
「本日は、お集りいただきありがとうございます……」というのは、共に学
ぶ立場としておかしいのではないか、と思うです。塾生の皆さんはお客様で
はない。いや、むしろその逆で「お客様意識」を持ってもらっては困ると考
えたのです。塾生がお客さま意識を持ったら、それでは塾は失敗なのです。
そうではなく、自らの意思で学んでほしい。教えてもらうのを待つのではな
く、共に学び、共に教え合う、助け合う仲間でいてほしいのです。
さらにいえば、塾生に「こうなってほしい」という私のビジョンがあります。
もちろんこの「未来調達研究所」にも共通する考え方です。それは「自らの
バイヤースキルを高める」だけではなく、「同僚のバイヤースキルも引き上
げる」先導者になってほしいのです。会社の同僚や後輩、部下、さらには上
司。そして、家族や友人などと接する中で、自らが良き模範となり、周囲の
バイヤースキルをも高めていく。「あの人すごいなぁ。僕もあの人みたいに
なりたいなぁ」と。その輪が広がり、周囲の人のバイヤースキルが、いや、
日本中の人々のバイヤー力が高まり、バイヤーが国を経済を良くしていく。
そんなビジョンを私は描いているのです。
だからこそ塾生の皆さんには、お客様になってもらってはダメなのです。な
にかを教えてもらおうと、口を開けて待っているような姿勢になってもらっ
ては困るのです。だから、言葉ひとつにもこだわっていきたい。そう思って
いるのです。
「ありがとう」と、気持ちを伝える。相手を気遣い、手伝う。
普通に考えれば、100%正しい、と思える言動も、「相手の主体性を奪わな
い。相手をお客様気分にさせない」。それを優先したときには、間違った行
動となる場合があります。目的が変われば正解は変わるのです。その目的と
は、組織においては、理念でありポリシーです。そこを起点にすべての言動
の是非を考えるべきだと私は思うのです。
調達・購買私塾のような集まりはすべて「この指とまれ」ですね。主催者が
示したビジョンや理念に共感した人が、「指」にとまって、そこから始まる
わけです。しかし、その「指」は唯一絶対のものではありません。それは、
ある人にとっては共感できない場合もあるだろうし、人によっては不快に感
じる場合もあるかもしれないのです。しかし、それでいいのです。共感でき
ない人は、そもそも「指」に止まってはいないわけです。だから、「指」は
一つではなく、世の中にたくさんあります。その中で、我々は我々の「指」
を立てました。調達・購買「私塾」という「指」を立てたのです。
そこでは、塾生をお客様扱いしないように進めたいと考えています。だから、
主催者のサービスは過剰にならない程度の簡素なものになります。それでい
いと考えています。ただし、です。そんな理念やポリシーの確認は、ことあ
るごとにご参加の皆さんとしていきたいと考えています。なんといっても、
皆さんと我々は日本の調達・購買界の変革を先導する同志なのです。
そして今回、我々は「未来調達研究所」という指をたてました。