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あなたの夢をあきらめて
正月に、ご自身の年間目標を立てる人は多い。3月に決算をむかえる企業が多い日本においては、正月と新年度の始まりが合致しないという「不幸」を背負っている。が、それは置いておこう。企業でも同様に、新年の目標を立てるところは多い。
正月を迎えた高揚感からだろうか。どうも、正月に立てた目標は想いだけの抽象的で曖昧なものになりがちだ。
この時期、私は営業マンたちの「新年ご挨拶」というものを受ける。バイヤーという職業柄だろうか、他部門よりその頻度は多い。「今年は、御社のこういう領域を攻めようと思っていまして」「今年は、抜本的なテコ入れをやっていきます」と何度も聞かされる。
おそらく誰も言わないだろうから言っておくと、このテの「新年ご挨拶」を歓迎しているバイヤーなどいない。新年の忙しい際に、他者の時間を奪ってしまう、ということこそサービス感覚の欠如にほかならない。この時期に、その類の挨拶を入れまくるバイヤーは、よほどの暇人かお人よしである可能性は80%を超える。
そんな抽象的な年頭目標を聞かせに来るくらいだったら、その分働いてなんぼでもいいから安くしてくれ、とほとんどのバイヤーは思っている。ここに絶望的な差異がある。
ところで、年々強く感じることがある。
それは、年末年始にいただく各社のカレンダーや手帳に書かれるキャッチフレーズが、どんどん宗教化していることだ。「夢!」「未来!」「子供たちに喜びを!」などというフレーズが並ぶ。あえて差別的に言うが、たかが中小企業のプレス屋が「働く人みんなに夢を!」「明るい未来を創造します!」などと述べる必要がどこにあるのだろう。
もちろん、理由が分からないわけではない。先日、中小企業の社長から、「人を集めよう、社員をやる気にさせよう」と思ったら、福利厚生や給与保証だけではなく、「夢・自己実現」というフレーズをチラつかせないといけなくなったと言う。
製造業に属する身として私は、自分の「夢・自己実現」なんかよりも、お客に喜んでもらえるように、品質が良く安価な商品を提供するのが第一だと思っているし、なぜ働くかと問われれば、まずは生活のためだからと思っている。
一人のバイヤーという立場から眺めても、中小企業に求められるのは、「夢!」とか「明るい未来!」よりも、第一に品質と適切な価格ではないか。抽象的な年頭目標なんて考え、述べに来るよりも、まずはその基本に振り返るときではないか。
「食うのに困らない時代だから、そんなことを言っても若者は働かない」と誰かは言う。そりゃそうだ。ただ、だとすれば、「食うのに」困りだす若者が増える時代になれば良い。そういう意味で、日本が絶望的な不景気に突入するのだって、悪いもんじゃない。
不景気が中小企業を蘇らせる――、中小企業を応援する一人のバイヤーとして願うのは、そんなことだ。