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これまでの常識③・・・努力すれば安くなると思っている「バイヤーにとって本当に必要なこと」
前記の講師の話によって、逆説的に私の中では整理がつきました。
バイヤーは、最初にサプライヤーに対してRFQ(見積り依頼)を行います。そして、その条件を呑むサプライヤーが見積り書を提示してくるはずです。その後、バイヤーはサプライヤーの中から厳格に選別し、発注先を決めます。そして、発注・納品。
このどこに交渉の必要な場面があるのでしょうか。
目標コストが最初から決まっており、それを明確に提示でき、それに合意した相手との取引ならば、交渉して努力することなど必要ありません。交渉力が必要どころか、不要です。いかに交渉ごとを減らしてゆくかを真剣に考えていくべきであって、逆ではありません。前述の講師だって、その能力に見合うギャラを提示できる発注企業があれば受ければ良いし、不満だったら引き受けなければ良いだけの話です。だからこそ、彼には交渉は不要だったのでしょう。
もちろん、ときには日本語を理解しているとは思えない営業マンから、予想もしていなかった要求を突きつけられるときだってあります。しかし、それを蹴散らすのは、交渉力ではなく、説明力であり、毅然とした態度です。ものごとの道筋・真実を示してやる力、それは無理に納得させることとは異なります。真実は常に人に優しいのです。
私が入社間もないころ、「バイヤーは気合だ」と言われました。「理屈じゃない。努力と根性だ」とも言われたことがあります。もともとしっかりしていない条件提示しかしていなかったために、トラブルを引き起こしても、努力しているさまが目立てば好意的に見られる風潮もありました。最も不運なことは、バイヤーが「努力すれば、結果はついてくるんだ」という評価軸にさらされていることです。
よく「バイヤーの仕事は結果じゃない。どれだけ下げようと努力しているか、過程が重要なんだ」と言う声を耳にします。ご愁傷様です。こういう雰囲気だから、上手くRFQ(見積り依頼)をやっていれば、90円で買えるところを、100円でしか買えず、それでいて努力に努力を重ね95円で買うバイヤーの方が「有能」と見なされるのでしょう。トラブルを起こして、七転八倒しているバイヤーの方が評価されるのであれば、誰だって工夫を重ねて少しでもラクに安く買える努力をするはずがありません。
私は交渉ごとが大嫌いでした。だから逆説的に、いかに交渉ごとを減らすかばかりを考えてきたのです。そして、どれだけラクに安く買うことができるかということを意識してきました。また、好きな能力を伸ばすよりも、嫌いなことをいかに減らすかに注力した方が、ずっとずっと成果が上がることがあることもあるのです。
その後、私は一部の先端業界では、バイヤーと営業マンが対面する回数は年間たったの2回である、という事実を知ることになります。しかも、そこのコスト低減率はものすごいのです。机を叩いたり、脅したりという交渉をすることもなく。
努力はもちろん否定されることではありません。しかし、世の中には、努力よりも、より良い手法を使ったり、改善したりすることよって、これまでより効率的に、精神的な負担も軽減しつつ、安く買うことを実現している企業もあります。現状が悪ければ「努力不足だ」と疑うのではなく、まず手法を疑ってみる。
何よりもバイヤーのモチベーションアップのために、私はこのアンチテーゼを述べておきたいのです。