どうしてもお読みいただきたい調達の話

どうしてもお読みいただきたい調達の話

めちゃくちゃ恥ずかしい思い出を公開したいと思っています。

1年ほど前のことです。パソコンのメールをチェックしていると、以前の職
場の関係者(かなりの年長者です)からのものがありました。

「覚えてるか?」

この文面からおわかりの通り、すごくイヤな感じというか、なれなれしいと
いうか、正直にいってあまりつきあいたくない人でした。私のメールアドレ
スは公開していますから調べようと思えば、調べることが可能です。私のこ
とが気になったのか、メールをくれたようでした。

「今度、そのへんにいくから会いましょう」とも書かれていました。

そこで、私はさらりとかわすようなメールを返信しておきました。しかし、
かなりしつこかったので、「まあ昔にお世話になったこともあった」と思い、
一度お会いすることにしました。

その人は、私と会うなり、いきなりこう切り出しました。
「なんか、調子にのっていろいろやってるらしいじゃん」
おいおい、と私は思いました。たまたま同じ職場で一緒に仕事をしただけの
関係にもかかわらず、尊大な発言は慎むべきだからです。
「テレビにも出てるって? へえ、お前はテレビに出るために会社を辞めた
のか」

この手の人間にはへりくだることが最も優れた解決策でしょうが、私は無言
のまま何も語りませんでした。

「いやだからさ、そんな顔するなよ。ちょっと言っただけだろ」
「ちょっと、って何をですか」
「だからちょっと、だよ」

さすがに私も興奮してしまっていたのか、私から会話を継ぐ気にはなれませ
んでした。何秒間か忘れましたが、永遠のような沈黙が続きました。

もちろん、ありふれた人なのかもしれません――。かつての同僚を茶化す人
であればきっとどこにでもいるのでしょう。以前の職場で見た私と、いまの
私にギャップを感じたかもしれません。あいつはたいしたことがなかった。
それなのにいま活躍しているということは単なる運か偶然か――。そう感じ
ていたとしてもおかしくありません。

どうも、彼は雑誌かテレビかラジオで、私が載っている(あるいは話してい
る)ものを見たようなのです。さらに、私の書籍がけっこう売れていること
に、驚いてしまったようでした。

そして、たまたま私が数百人規模の講演会で話したときの記事を読んだよう
でした。

「これがあいつか?」

たしかに、話している内容はかつて私が言っていたことと似ている。さらに、
メールマガジンを発行している。

でも、「聴衆を圧倒する、軽妙な話し口?」。彼は記事を読んで信じられな
かったのですね。

「お前、うまくやったな」と彼は言いました。「なんかコネがあったのか」。

そんなもんはあるはずはありません。コツコツと学び、コツコツとアウトプ
ットを重ね、成果を出し、それを次の仕事に結びつけるしかないからです。
魔法の杖なんてものは、探してもどこにもありません。

もう、私はイヤになりました。これは、コミュニケーションスキルでどうに
かなるとか、対話術とか、そんな種類の話ではないのです。その場に座って
いるのがイヤだったのです。ただ、できるだけ最低限の礼儀は尽くそうと考
えました。

「もう一時間は経ちましたし、こちらもそろそろ……」。私は時計を見まし
た。彼は不服そうな顔をするのです。きっと時間もありあまっていたのでし
ょう。
「なんだよ、忙しい先生だなあ」
さすがに私も言い返しました。
「先生と茶化されるほど落ちぶれていませんよ」
「先生、先生っていわれていい気になっているんじゃないか?」
「○○さん、あなたはふらっとやってきて、こちらを不快にして恥ずかしく
ないんですか」
沈黙が続きました。

「いや、まあ、なんというかなあ」彼は話しだしました。「そんなに活躍で
きるんなら、以前の職場でも、もっともっと活躍してくれりゃあ良かったん
だけどなあ」。
つぶやきのようでした。

私はこれまで、組織にとらわれない生き方を求め、他者にもそれを推奨して
きました。しかし、たしかに、自著でも書いたとおり、組織の力は強く、そ
れを個人の力では突破できないこともあります。残念ながら、組織を脱出し
たほうが力を発揮できることもあるでしょう。

私はかつての組織を批判しません。事実がどうであれ、その組織からお金を
もらい「食ってきた」ことはたしかだからです。組織で活躍できなかった、
と他人の目に映ったとすれば、それは間違いなく私の責任です。

「昔、お前は、こう言った。組織は変わらない、変わらないなら自分が出て
いく、と」
「もちろん変わる組織もありますよ」
「そして、多くの人も変われない」
「組織よりは人のほうが変わりやすいんじゃないですか」

そうかなあ、と彼は言いました。市場環境の悪化、製品が売れない、やって
も成果を正しく評価してもらえない、やるだけ無駄……。だから、個人が積
極的に変わるのは難しい時代だ、と。

組織が変わらないことを言い訳にしていては、たしかに何も変化できません。
私は、この人はたしかにずっと変わらないなあと思いました。

「そうやって言い訳ばかりして生きているんですね」。そう喉元まで出かか
りましたがぐっと抑えました。代わりに「変化したいひとはたくさんいます
よ。だから、自分がまっさきに変化して、それをほかの人たちに見せようと
しているんです、私は」

ふうん、と彼は言いました。

「なんなら、私がやっているメールマガジンでも購読してみてくださいよ。
一人の担当者でも変化できるんじゃないかと思って真剣に書いているんです。
もしかしたら組織は動かせなくても、一人ひとりの担当者が変わることはで
きるはずです」

「メールマガジンってねえ。そんなの購読したこともないし、読んでもどう
役に立つのかもわからないし」

そのころ私は未来調達研究所を開設しておりませんでしたので、「ほんとう
の調達・購買・資材理論」のことを説明しようかと思いました。購読自体は
すぐにできるし、1ヶ月以内にキャンセルもできる――。ただ、もうこれ以
上の説明はやめました。

「結局は、何もしない、ということですね。それじゃあ、たしかに変わりま
せんよ」

別に「ほんとうの調達・購買・資材理論」を必要以上に宣伝したいわけでは
ありません。もちろん、購読していただきたいと強く願っています。ただ、
他にもさまざまな著者の書籍があります。セミナーもあります。いろいろな
教材があります。また、知識・情報だけではなく、個人が変わるためのきっ
かけはどこにでもあります。その小さなきっかけを放棄しては、何も変える
ことはできません。

私は気になることはすべてやってみる、の精神で生きてきました。すべてが
成功するわけもありません。時間の無駄だったこともあります。ただ、やっ
てみなければ、失敗もできません。バットを振らなければ三振すらできない
のです。
http://bit.ly/xYlF3y

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