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まわりくどくすると余計なことばかり(1)
「なんでそんな情報知っているんだよ!!」
その課長は驚き、声を上げた。
課内会議のときのことだった。
何かの議題が挙がると、「それって、こうらしいんですよ」と部下の若手バイヤーがすぐさま返答する。
とある議題に関しては、「ああ、それは伝送部の設計の方がやっています」と答える。
その若手バイヤーが語る内容は、本人の業務範囲を超えたことばかり。
何か問題が持ち上がれば、「それは根深い問題のようで・・・」と説明まで加えてしまう。中には担当バイヤーよりも詳しい内容を訊かれてもいないのに話し出す。
「ええ、そのサーバーについては、こういうことみたいなので、こういう風にやった方がいいと思うんです」
他バイヤーの領域で、そこまで提案してしまうと、担当者も存在する意義を喪失してしまう。
「色々勉強しとけよ」と日々そのバイヤーに指導している課長も、じきに呆れてきた。
そして、しばらく経った後に、そのバイヤーに対して、ついこう言ってしまったのだ。
「おいおい、分かったけど、なんでそんな情報ばっかり知っているんだよ!」
そのバイヤーは笑顔で「いえいえ、皆さんが教えてくれるので」とだけ言った。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
はじまりはその数ヵ月後に遡る。
全社として色々なメーカーと関わることがある。
しかし、それぞれのメーカーと付き合うことはあっても、メーカー担当のバイヤーや設計者の情報が、他の社員と情報共有されることはほとんどなかった。
自分の担当しているサプライヤーにニュースがあったとして、そのことを他のバイヤーに教えているだろうか。いや、その必要性すら感じていないのではないか。
バイヤーでも設計者でもいい。分野や担当が異なる人々に広く、自分が得た情報を共有する営みは残念ながら行われていない。
そういう問題に直面していた私たちは、会議を行うことになった。
そこで出てきたのは「せめて最初にサプライヤー工場に行ったときの出張報告を皆で共有できないか」というアイディアだった。
その出張報告をどこかに集めて情報を共有しよう、というところまで決まってその会議は終わった。
私はその会議に参加していたので、率先し議事録を書き、「どこかに集めて」というところを「必ず私に集めて」と書き換え、全部門の全責任者に向けて送付した。
運の良いことに、大半の社員は「訂正をあえてするほど熱心」ではないから、そのまま私に情報が集まり出した。
正直、設計者の出張報告は宝の山である。
私はその山を占領することに成功した。
私がやったことは単にそれだけだ。