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みんなの共栄(2)
「どうやって、不良品を出すなっていうんですか!!」
あるサプライヤーの品質管理の担当者は、バイヤーに対して怒りにも近い声を上げた。
サプライヤーの工場の応接間で一通りの挨拶を済ませたあとに通された隣の会議室。
バイヤーは不良品の対策会議に出席していた。
「もう、挨拶や工場紹介はいいんです」とバイヤーは切り出した。
「とにかく不良品が最近多くて困っている。改善をお願いしたい。そして対策案の提示をお願いしたい」
バイヤーは続けた。
それに対して、相手の品質管理の担当者は「分かりました」とは言ったものの、話を続けるにつれて、思いを流出させずにはおられなくなった。
「そもそも御社の発注方法に問題があるように思うのです」と品質管理の担当者は述べだした。
バイヤーは、こちらの側(=発注者)に問題があると言われ、反論した。
たしかに、こちらも少量多品種を発注している。しかも、納期は厳しい。だけれど、それらの条件を分かった上で契約しているのだ。
「生産数の変動が激しく、要求するレベルも年々上がってきている。これでは、我々はお手上げです」と品質管理担当者は述べ、こう言ったのだった。
「どうやって、不良品を出すなっていうんですか!!」
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外国に住むバイヤーと話していて、なかなか分かってくれないことがある。
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できるだけ社員の数を抑え、不況に強い体質の会社にする。
これはバブル崩壊を経験した日本企業の失敗から学んだ教訓でもあった。
2001年ごろ、ITバブル崩壊のときも同じようなことが起こっていた。
「身軽に!身軽に!」そう考えた大多数の企業は工場の人員を極限まで減らし、可変な部分を臨時社員でまかなう構造とした。
社員数を減らすことができる、とはそれだけ不要な社員がいたという事実を見せつけたことではあった。
だが、私は最近逆のことを考えている。
それは「不況時にも社員数を減らさなかった企業のほうが、長期的に見て正しかったのではないか」ということだ。
確かに、不況時に社員数を減らさなかった企業は大変だった。
「最近、発注いただく数が少ないでしょう。だから最近は早めに工程をストップして、皆で自己啓発運動をやっているんです」と笑いながら哀しき状況を教えてくれる営業マンもいた。
「最近、工場でやることなくてねぇ。だけど工場のやつらを帰らせるわけにもいかないでしょう。だから、工場のペンキ塗りとかをやらせてるんですよ。」と教えてくれる営業マンもいた。
ちなみに、その営業マンは「次は草むしりを始めさせました」。「もうむしる草もなくなりました」と現状を次々教えてくれたのだが。
しかし、その営業マンの企業は現在では、他のサプライヤーを引き離して抜群の品質と納期対応を誇っている。
臨時の社員たちでは作り上げられない一体感がそこにはあり、技能の伝承もしっかりと行われているからだ。
「社員数を減らさないよう、あのときは必死で頑張ってきた」「だから今では、他の企業と違って、しっかりとした生産体制が出来上がっているんです」と語る営業マンの最近の顔は明るい。
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短期的な利益を否定する気は全くない。
むしろ、短期的な利益の追求を否定していては、いまからは何の議論もできないだろう。
しかし、それと矛盾するのは承知で言えば、やはり工場工作員の単純な削減のみで、不景気を乗り切った企業は今頃になってその傷跡の深さに気づこうとしている。
それはある意味しかたがなかったし、間違っていたとは思わない。
ただ、やはりバイヤーもサプライヤーに短期的なコストダウンだけを求めていては、長期的な利益を得ることはきっとない。
かなり胡散臭い言葉で言えば、最終的には信じることだと思う。
サプライヤーの長期的な利益が、いつかしら自社の利益につながっていると信じることだ。
それには、極端に言えば、値上げという選択肢を常に考慮するということだ。
トヨタの芸術的な系列組織を見てみよう。
買い手側のみの利益の追求だけではなく、グループとしての利益創造がそこにはある。
「長期的な利益から、買うべき何かを考えよう」