イノベーションを起こすために大切なこと

イノベーションを起こすために大切なこと

この1年、アップルコンピュータについて、さまざまなメディアで書いてき
ました。雑誌やウェブマガジン、そしてテレビでアップルの凄さについて解
説しました。私のセミナーでもアップルの凄さを説明しています。デザイン、
開発・設計、生産委託、アフターサービス、コンテンツ販売、そして調達。
どの側面から見ても、注目に値します。

しかし、そのなかでももっとも考えるべきは「なぜアップルがあれほど独創
的な商品を開発できたのか」でしょう。実はこの問題について明確な答えを
出しているひとはいません。どの論者も、スティーブ・ジョブズが偉人だっ
たとはいっても、なぜアップルとジョブズが、マックやiPhoneなどを
創出できたのかについてハッキリとした解答をしていないのですね。

でも、それって私の不満でもあったわけです。コンサルタントという立場は、
再現性のあるノウハウを語るべきです。特定事象といってしまったら、学ぶ
価値はありません。それに、それこそを分析しなければジャーナリストとも
言えないし、評論家とも言えないし、コンサルタントとも言えない。じゃあ、
なぜアップルが卓越した商品を創りあげることができたのでしょうか。

正直、私も自分なりに分析したもののわかりませんでした。これの答えは、
「日系A社でもなく、日系B社でもなく、日系C社でもなく、アップルが優
れているのか」を記述したものでなければなりません。なぜなら「独創的な
商品を日本メーカーも創りましょう。付加価値のある商品を開発しましょう」
といったところで、まったく意味がありません。その方法がわからないから
困っているわけです。

私はジョブズのインタビューから自伝から、さまざまなものを読みました。
そして日系メーカーの凋落理由を語る本もかなり読みました。それでもなお、
絶対的な差異がわかりませんでした。

ただ、あえていうと、一つ違いを見つけました。私としては収穫でした。そ
れは何か。簡単に言うと、ジョブズはインタビューで「音楽への愛」を語っ
ています。その一方で、日系のトップから「音楽への愛」を読むことはあり
ませんでした。後者は、もちろん、ビジネスモデルとして音楽やダウンロー
ド販売を語っています。しかし、「俺が音楽大好きなんだ」とか「ポータブ
ルプレイヤーを俺自身が使いたいんだ」と発言した例は知りません。あくま
でも、いまの日系経営陣のことです。

私は、ジョブズは音楽がとても大好きだったのだ、と思います。もちろん、
このことだけを指してアップルが成功したといいたいわけではありません。
ただし、いまの私は、アップルの成功の8割くらいは、スティーブ・ジョブ
ズというトップが音楽好きだったことではないか、とすら思うのです。言い
すぎでしょう。しかし、繰り返し、日系トップと、スティーブ・ジョブズの
違いはそこでした。

商品を好きなこと。これがイノベーションを起こす「たった一つの冴えたや
り方」かもしれません。とするならば、調達・購買の世界でも成功する「た
った一つの冴えたやり方」は自分の調達品を好きになることでしょう。現場
で対象を好きになる。そんな簡単な成功法則があったでしょうか。

しかし、私はけっこうまじめに考えています。好きになること。こんな平凡
で凡庸で言い古されたことが、成功法則だったなんて。

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