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コストテーブル妄信、盲信、猛進(1)
「全く意味ないですよ、そんな計算!!」
ある研修室でのこと。
その会社は全国のバイヤーを集めて「コストテーブル」講座を受講させていた。
単にコストテーブルを学ぶ講座ではつまらない。
そう考えた会社側は、「これまでコストテーブルが存在しない領域について、コストテーブルを作成する」という講座をやろうとした。
品目は、半導体製品のオンボードパワーコンバーターだった。
講座では各購入品のスペックを明らかにし、それの価格との相関をとろうとした。多変量解析を実施し、重回帰分析を重ね近似曲線を求めようという試みだった。
入力・出力電圧は?出力電流は?リップルノイズは?効率は?
各バイヤーはそれぞれが購入しているオンボードパワーコンバーターのスペックを忙しい業務をぬって、一覧表にまとめていた。
そして、解析の開始。
数多くの変数を入力し、近似曲線を引いて、さらに未知の購入品のコストを各要素から予想する。
各要素の値を、類似曲線で求めた複雑怪奇な数式に当てはめて、コストを「決定する」。
「このスペックだったら、きっとこれくらいのコストになるはずです!」
その講座ではそう結論付けられた。
でも、それを見ていたあるバイヤーは、そのコストとは全くかけ離れた現実を知っていた。
近似曲線を引いて求めるコスト計算式は例外が多く、さらに市場を考慮しておらず、参考値以上にはなるはずがないからだ。
だから、そのバイヤーは静かに、だけどはっきりとこう言った。
「全く意味ないですよ、そんな計算式。業務には全く役立ちません!」
・・・・
そのバイヤーは私だった。
いまでもどれだけ多くの会社で「コストテーブル」なるものが作成されているだろうか?
そして、どれだけの人がコストテーブル信者として無意味な交渉を続けているだろうか?
コストテーブルとは、ある断面で切ったときに、「こういう近似曲線が描けますよ」という程度のものでしかない。
それは絶対的なものではなく、そのときの使用データ上の仮説でしかない。市場環境やスペックで変更してしかるべきだ。
しかし、そうとは信じられない人がいる。
「世の中の全てが、ある一定のコストテーブルから説明できる」と考える人だ。
当然ながら、買い手と売り手の力関係と、売り手企業の戦略もあるのに、そういう「当然の前提」を信じることができない人がいる。
もちろん、積み上げ式のコストテーブルならば、まだ信じてもいい。この機械を一回使うといくらかかると細かく計算しているものならばまだ参考として使ってもいい。
だけど、前述のように価格実績を数式でひねくり回して(これはときとして高尚な統計解析の形をとっている)、「はい、これでコストテーブルいっちょうあがり」とされたものはほとんど使えない。
いや、有害といってもいいほどだ。