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サプライヤーマネジメントと私
「なんでこんなに高いのか」
「コストを下げなきゃダメだ」
「まじめにコストダウン活動しているのか」
調達購買の実務で、私はこういった言葉をサプライヤーに対して使っていま
せん。正確には使わなくなりました。コスト削減は、企業として生き残るた
めには自発的にやるべきものだし、「やって当然の活動」だからです。認識
の程度に差はあるかもしれません。しかし、すべてのサプライヤーの営業パ
ーソンは、自社の利益を増やすために、また顧客により良く安価な製品やサ
ービスを提供しなければならない、そういった認識は持っています。バイヤ
ーは、そういった本来的にサプライヤー側でも認識している内容を、あえて
声高に言う必要がない、そう考えているためです。
もう一つ、先ほどの3つに代表されるフレーズを使わなくなった理由があり
ます。それは、バイヤーであれば、当然口に出すべきと、誰もが認識して疑
わないからです。誰もが変わらず同じフレーズを使うのであれば、その大勢
の中に埋没してしまう可能性が高くなります。埋没するくらいなら、別のフ
レーズを使って話をしよう、そう考えたのです。別のフレーズを使い、違っ
た行動によって、大勢のバイヤーとは違った存在になろう、それが私のバイ
ヤーとして生き延びる術の原点です。
コストダウンしろ!とサプライヤーに言わなくなりました。では実際のコス
トダウンの成果はどうかといえば、同僚バイヤーと比較しても圧倒的なコス
ト削減を獲得してきました。約70名のバイヤーで達成した年間のコスト削減
総額の10%を私一人で複数年にわたって稼ぎ出しました。さて、私と他のバ
イヤーの成果の違いの原因はなんでしょうか。
もともと営業部門で働いていた私は、お客様である調達購買部門の対応には
大きな不満を持っていました。それは仕事の進め方以前の問題です。約束の
時間に訪問しても長時間待たされたり、どう考えても発注仕様の決定がお客
様の都合で遅れたのに、納入希望日が守れないと「納期遅れ」と罵倒された
りといった経験がありました。私の調達購買部門での仕事は、営業時代に出
会ったバイヤーを反面教師として始まりました。
しかし、私が異動した調達購買部門では、営業時代に出会ったバイヤーの生
き写しと思える同僚ばかりでした。当時の私の上司は電話口であろうと、面
談であろうと「俺は知らねーよ」が決め台詞でした。自分の意にそぐわない
サプライヤーの対応はすべてその一言で片付けていました。でも、そんな一
言では、起こっている問題を解決できません。放置するだけです。私は、な
ぜサプライヤーがバイヤーの意にそぐわない対応をするのか。その原因に興
味を持ち、詳細の解き明かしを始めました。まずは、サプライヤーの主張を
しっかり聞きました。すると、さほどバイヤーの負荷をともなわないわずか
な社内調整をするだけで、問題が解決できるケースの存在を知りました。
また、意外にサプライヤーはバイヤー企業の実態を知らないと感じた私は、
積極的に自社の方針や考え方をサプライヤーに伝えました。たとえば、購入
価格の低減目標額が示されると、その数値に加えて、なぜその数字になるの
か、理由を説明したのです。こういった理由の明確化によって、仮にできな
い場合であってもその理由が語られるようになりました。その理由をどのよ
うにクリアするのかをテーマに議論の継続が可能になったのです。
そして、サプライヤーから購入した製品が、最終的に市場でどのように使わ
れているのか。バイヤー企業として接している市場や顧客の情報、バイヤー
企業としての販売市場への取り組みも積極的に発信しました。これは、営業
時代の経験が役立ちました。そういった情報は、サプライヤーのコスト削減
提案に大きな影響を与えました。
そんな、同僚たちと違う行動によって、同僚とは異なる成果を手にした私は、
いつしか調達購買部門内でのバイヤー教育の担当になりました。これまで、
自分の思いつきでおこなってきたさまざまな対応を、同僚社員に伝えなけれ
ばならなくなったのです。私は、初めて同僚に教育した際の資料を、今でも
大事に保管しています。もう一つの私の原点を象徴する内容です。バイヤー
教育を始めてから、さまざまな文献を読みあさる中で、世の中にはサプライ
ヤーマネジメントといった管理手法の存在を知りました。できる限りの資材
調達、購買関連の文献を参考にして、内容を加え、体系化をおこない、普段
の仕事で実践し効果のほどを測ってきました。それは、今でも日々ブラッシ
ュアップされ続けています。
サプライヤーマネジメントの最大の目的は、バイヤー企業とサプライヤーの
役割と責任の分担の明確化です。「役割と責任の分担の明確化」によって、
サプライヤー側で発生するコストの削減活動は、サプライヤーの仕事と明確
に規定できます。サプライヤーの仕事にバイヤー企業として一緒に取り組む
ためには、コスト削減のテーマを共同して検討し、実行計画(スケジュール)
管理が最低限の実施内容になります。必要に応じてバイヤー企業内のリソー
スも活用しつつ、実現へ向けての推進力の維持に努めます。
サプライヤーマネジメントとは、特にバイヤーが意識していなくても、日常
的にバイヤーはおこなっています。しかし、意識していないと、どんなバイ
ヤーの行動が、サプライヤーにどのように作用するかがわかりません。サプ
ライヤーマネジメントは、意識してバイヤーが行動し、サプライヤーの行動
をバイヤー企業寄りにコントロールします。バイヤー企業内で、調達購買部
門にもっとも期待されるコスト削減も、サプライヤーマネジメントの的確な
実践によって達成可能です。それが、私の20年近いバイヤー活動での確信な
のです。