バイヤーになって感じた最初の壁 3(牧野直哉)

バイヤーになって感じた最初の壁 3(牧野直哉)

~前回までのあらすじ~
一端の営業マン(と、思っていた)の私が資材部門へ異動。すると、そこには2年先に異動して、主戦力となっていた同期入社の同僚が。焦りながら、どうやってコストを下げたらいいのか、バイヤーにとっての根源的な問題に取り組みます。しかし、なかなか自分の思うように進められない私は、サプライヤーに暴言を吐いてしまいます。汚い言葉でなに一つ変えることができなかった私は、奮起して中小企業診断士の資格取得を目指します。そして、一般的な会社の仕組を学び、日々の業務に照らし合わせてみる……すると、そこには部分最適しか追求していない資材部門があったのです。

所属部門の小集団活動で書記を買って出た私。まだ資材・調達を語れるレベルにはありません。したがい、正真正銘の「書記」です。自分でミーティングを主導することはありません。中小企業診断士を目指す仲間からのアドバイスを忠実に守って、その場を仕切る若手主任が円滑に議事を進められるように、それだけを意識してホワイトボードに向かっていました。

毎週土曜日には中小企業診断士取得を目指して学校へ通います。当時の受験科目は次の8つでした。

1. 経営基本管理

2. 財務管理

3. 販売管理

4. 労務管理

5. 生産管理

6. 資材管理

7. 経済的知識

8. 鉱工業技術知識

当時、私は大企業に勤務していました。しかし、基本的な企業の機能は変わりません。企業の様々なセクションの課せられた機能を学び、それまで自分が営業バカともいえる、まったく無知であったことを思い知らされます。

当時、自分に課せられた仕事はこなしていました。しかし、自分の目の前を通り過ぎてゆく様々な書類にどんな意味があるのか、さっぱりわかりません。営業マンとして、見積書を提示して、価格の交渉と銘打った値引きを行なって、注文書を頂き、納期通りに製品を納入して、請求書を発行して入金を得ていた自信などなくなっていました。資材部門へ異動して、営業時代と比較をしてみると、

・サプライヤーから貰う見積書

・サプライヤー担当者と行なう価格交渉

しか同じ書類であり、プロセスが存在しなかったのです。しかし、中小企業診断士を目指した勉強を通じて、結局のところ営業時代におこなっていた業務の裏返しであることを理解します。書類の名前が違っていたり、資材部門で効率を追求した結果、別の書類で代用していたりしていただけだったのです。受験科目のすべてを学び終え、資材の業務内容を理解していた頃、私はバイヤーとなって2年が経過していました。

そんな頃、あるチャンスが訪れます。引き続き、忠実に小集団活動の書記を務めていました。まさに書記です。討議内容には全くタッチしていません。以前よりも、いろいろな話は理解できるようになって、トンチンカンさは影を潜めていました。しかし、まだ主導権を握れるレベルにはありません。今思い返せば、だからこそ訪れたチャンスでもあります。

当時、資材部門の人員構成はある世代が偏っていました。50代と30代前半までが多く、30代中盤から40代が非常に少ない。そんないびつな世代構成は、50代が持つ豊富なノウハウをいかにして伝承するかが大きな課題になっていました。同時に30代中盤から40代が少ないことで、若手の教育が十分に行えないことでトラブルも発生させていました。技術の伝承と若手の底上げ、そして繋ぐ世代が少ない……そんな状況によって、次なる小集団活動のテーマが資材業務のマニュアル作成になります。そして私がリーダーを担うことになったのです。

私は小集団活動の進め方について、一つ疑問を持っていました。主任クラスが持ち回りでリーダーをするのですが、誰一人として準備をしていないのです。開口一番「さて、どうしましょうか」といった具合です。グループ全体が集まって討議ができるのは月に一回。なにか討議の土台になる提案でもあれば……と思ったのは一度ではありません。幸いなことに「マニュアル作成」という大きなテーマは決定しています。私は、どのようにマニュアルを作成するかについて、思いを巡らせることになります。

まず、私の職場の様々な業務について、

(1) 定期業務

(2) 不定期業務

に分類しました。さらに定期業務を

① 日次

② 月次

③ 年次

の3種類に分類しました。次はそれぞれの業務をどのような形でマニュアル化していくかという方法論です。

前回、当時の資材部門が「部分最適」であることは述べました。その原因が、資材部門在籍者の他部門業務への理解が浅いことに原因があるのではとの仮説も立てていました。逆に、他部門が資材の業務を理解していないが故に、いろいろな問題が起きていることも徐々に理解していました。

テーマは自部門での業務をどのように遂行するかを文書化することです。しかし、私自身営業部門を経験していることで、営業がいかに資材部門を考慮せずに仕事をしているかがわかりました。そして逆に、資材部門も営業の事情などお構いなしにしていた面も理解していました。もし、そんな双方の事情をお互いで理解して、配慮することができたらということを考えていました。それをどうやって明文化するか。私は悩みました。

当時(1998年)は、今ほど資材調達関連の文献が潤沢ではありませんでした。しかしこの年、海を渡ってサプライチェーンマネジメントという言葉が日本に登場します。現代用語の基礎知識1999年度版には、このように説明されています。

★サプライチェーンマネジメント(SCM)(supply chain management)

取引先との間の受発注、資材・部品の調達、在庫、生産、製品の配達などをIT(情報技術)を応用して統合的に管理し、企業収益を高めようとする管理手法。情報通信技術によって企業間を超えたサプライ・チェーン(供給連鎖)全体を最適化し、ビジネス・スピードを画期的に短縮できる革命的手法である。

アメリカ製造業の日本型経営研究から生まれた手法の一つで、モノづくりではJIT(ジャスト・イン・タイム)の概念が主要な要素になっている。SCMはアメリカのハイテク企業を中心に自動車産業、流通業などで導入され、企業間競争力の中核になっている(『米SCM革命(1)~(6)』「日経産業新聞」九八・六・二 – 一一)。
日本の企業では、SCMの導入によって日本アイ・ビー・エムがパソコンの部品在庫を一カ月分から一日分へ、ソニーは家庭用ビデオカメラで製品在庫を四五日分から三○日分へ圧縮することにしている。東芝、NEC、日本ヒューレット・パッカード、富士通、キヤノンなども在庫の削減を目指して導入を進めている(『米国流の新経営手法』「日本経済新聞」九八・九・三)。

[株式会社自由国民社 現代用語の基礎知識1991~2000年版より引用]

様々な文献に次のような一般的な概念図が掲載されていました。そして、上記に挙げたような説明と共に表現される次のような図表が、私のマニュアル作成原案にあるアイデアをもたらすことになるのです。

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