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バイヤーに必要なこと
「そんなことも知らないでモノ買ってんのかよ!!」
月末にサプライヤーから届く見積り書にサインをしているとき、上司からこう言われたことを昨日のことかのように思い出します。
製品の価格を決めるまでに、相当数の打ち合わせを実施している。社内でも価格の精査を実施し、関係者は納得している。その金額どおりの見積り書が届いている。そして、どこかミスはないか自分で何度も確認している。その見積り書にサインし、最後に上司の机にある「承認依頼箱」に入れておく。
すると、予想通り、しばらくすると、私に向けた大声が聞こえてきます。「おい!これは何だ!説明しにこい!」。
私はすっとんで行って説明を開始しますが、矢継ぎ早に質問が飛んできます。
「これはなんでこの価格なんだ?」
「その理由はなんだ?」
「見積りに記載されている工法は実際のそれと合っているのか?」
「これは作業者何人で作っているんだ?」
「この開発費用の妥当性は?」
「費用請求されているこの設備は、もともとサプライヤーが持ってたんじゃないか?」
私が答えにつまると、必ず「そんなことも知らないでモノ買ってんのかよ!」と怒られる。だから、私は「確認します」としか言えませんでした。
時は月末最終日の夕方。私はそこからサプライヤーの営業マンに電話をし「なんとか今から現場を見せてください」と頼むしかありません。「もう工場の連中は帰りましたよ」と言われると、私は「工場内の設備と作業標準書だけでも確認に行きます」と。そこから車を走らせ、到着するのは夜8時。「また、あんた来たんかね」と守衛のおじさんから言われ、嫌がる営業マンと真っ暗になってしまった工場内部に入っていって、上司から投げかけられた質問・されそうな質問をできるだけぶつけて、悔いのないように確認してやっと帰社したと思ったら、時間は夜11時。
もう、これで良いだろうと思って、「遅くなりまして、すみません。確認してきました!」と上司に伝え、説明を開始します。すると、次は「そもそもこの焼結工程がなくても、製品は成立するはずだ」と議論をふっかけられ、答えきれずに一巻の終わり。
翌日、届くことを止めない書類を前にして、「支払い遅延」の始末書を書きながら涙をこらえていた姿は懐かしくもあります。不条理感。脱力感。おびえ。迷い。悲しみ。そして、逃げ出したいという思い。感情の起伏が激しくなり、酒を飲む回数が増え、怒りっぽくなる。何かに意味もなく激しくぶつかる。悩み、仕事のことばかりを日々考えることが多くなりました。当然、眠ることもできません。そんな期間が続いていました。
しかし、「10年かかるところを、3年でお前に教え込んでやる」と宣言したその上司からの指導は、運良くも運悪くも、現在の私のスタイルを形作ったという意味で非常に思い出深いものです。そしてその指導内容は、今思えば、その後出会った優秀なバイヤーが、日々取り組んでいる内容と一致していました。
調達・購買とは、そしてバイヤーとは、自社の生産・販売活動に必要なモノを買ってくる仕事です。私は、優秀なバイヤーとは基本的に、次の三つを愚直に行っている人であると思い当たりました。
① 自分が納得するまで価格に妥協しない
② 高いハードルに挑戦する
③ とにかく速く仕事をこなす
偶然ではありますが、その上司からの指導によって、この三つの要素を学べ、1年後にははるか上の先輩たちが担当していた仕事までこなせるようになっていました。
設計部門とも互角に話し、多くのプロジェクトを指揮する。サプライヤーに対しても、製品知識では営業マンに負けない。月末の見積り処理時に、その上司に何か訊かれても、即答できる。すると、上司は私の目を数秒間見つめて、「分かった」と微笑しながらサインをしてくれる。
このような経験ができた私は非常に幸運でした。