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バイヤーに必要な三つのこと
礼儀は基本中の基本として、私が学んだことを三つに表すならば、次のようなことです。
(1) 製品の知識
(2) 買い方の知識
(3) 契約・法的な知識
これらは、高度でもなく、精神的な宗教じみたことでもなく、当たり前のことばかりでした。
(1) 製品の知識
読んで字の如く、製品のことを理解しているかどうか。図面が読め、その製品に求められている仕様は何か、どのような生産工法で作られているのか、市場価格はどれくらいか、業界勢力はどうなっているのか、ということです。
思い出すに、その人のもとには多くの設計者から製品に関する質問が届いていました。「こういう製品を作りたいと思っているが、どこか紹介してくれないか」「こういう風に製品を変更したいと思うが、工程はどのように変わるか(コストが上がるか)」などなど。その人の製品知識を頼りにした問い合わせです。そこには、設計者と同じ土俵で話せるという、共通言語がありました。
外国語を思い出してみれば良いでしょう。今では翻訳ソフトがある。ところによっては通訳もいる。でも、やっぱり人と人とのコミュニケーションが円滑化するのは、共通言語によってです。「この人は分かっているな」と設計者・サプライヤーに思わせることが、どれだけ、その後に役立つかは計り知れないものがあります。同時に、「この人には下手なことはできないな」と思わせることもできるはずです。
(2) 買い方の知識
これも字の如く、どれだけ製品に適した調達手法を知っているかということです。競合でサプライヤーを選択することもあれば、インターネットで探すこともある。コストテーブルを基に価格を決めるときもあれば、指値でサプライヤーに申し入れることもある。
あるいは、商社を利用し効率化を図ったり、調達行為の一部を外注化(BPO)することもある。リバースオークションを活用し、サプライヤーに緊張感を与えることもする。
このように、製品・場面ごとに最適な調達手法は異なります。その引き出しをいかに多く持っているかが、そのバイヤーの価値を決める尺度です。一つを盲信せず、多様なやり方の中から最適解を瞬時に判別できることが、周囲からの尊敬を集めます。
以前から、私は「コストテーブルを活用して価格を決める」ことだけを神格化して布教しようとする書籍群に、どこか違和感を抱いてきました。コストテーブルとは、手段の一つに過ぎないのです。コストテーブルよりも高い金額で買うことがそのときの最適解かもしれない。あるいはコストテーブルよりもずっと低い金額で買うこともできるかもしれない。しかし、その事実をもってコストテーブル手法が否定されたわけでもなく、その手法が適合しなかっただけのことなのです。
(3) 契約・法的な知識
多くの企業では、取引基本契約書においては、指定納入場所までの品質保証はサプライヤーが全責任を持つことになっています。しかし、このことを知らなかったらどうなるか。例えば、「サプライヤー工場出荷時は不良品ではなかったものが、自社納入時には不具合を生じている」などと言って大掛かりな対策会議を開いてしまいます。これは、実際私が経験した例なのですが、「輸送時のトラブルは誰の責任か」などと、関係者で侃々諤々の議論を交わしていました。お疲れ様です。このような議論は、契約条件を知っていれば、「これはサプライヤー責任範囲なので、至急改善すること」と一言で終わりです。
トラブルの多くは、契約上の取り交わしで解決できることが多々あります。設計者よりも当然詳しくてしかるべき領域であり、バイヤーならば熟知しておくべき領域です。自社がどのような契約をサプライヤーと結んでいるのか、ということすら知らないバイヤーもいますので、まずは自社の取引基本契約書の熟読は必須でしょう。
加えて、法的な知識が必要です。下請法は当然として、商法を知っていればサプライヤーとのやり取りに、厚みが出てきます。法定償却のしくみを知っていれば、毎期のコスト低減に役立てることもできるはずです。
これらは、バイヤーが一度は研修を受けていることの多い、基本事項です。しかしながら、業務の多忙さゆえに失念してしまうことが多い。あるいは、高度な知識ばかりに意識が向き、このような基本知識をないがしろにしてしまいがちになります。しかし、社内の人間から、あるいはサプライヤーから一目置かれるようになるには、まず基本知識を持っていることで十分なのです。英語が話せるよりも、高尚な理屈で煙に巻くよりも、図面を見ながら話ができるバイヤーの方がずっと信頼もされますし、優れています。
灰皿を投げつけられた日から、私は基本の大切さをずっと心に留めているのです。