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バイヤーのためのプレゼン論 3 ~どうやってプレゼンするか(牧野直哉)
前回のお話は、プレゼンでのポイントは「どんな話をしようか」というテーマ作りと、テーマをいかにして聴衆に理解してもらうか、その構成作りにあるとしました。そして、バイヤーの行なうプレゼンは、場の主導権を握るために、「言ったもん勝ち」的に行ってしまうことが重要であるとしました。
そして、前回は「些末」とした内容です。プレゼンテーションに活用するツールのお話です。前回もお伝えしたとおり、私はWindowsのユーザーなので、プレゼンテーションといえばPowerPointを使います。しかし、私はこのPowerPointや、Keynoteといったプレゼンテーションに使用するソフトの存在が、残念ながらプレゼンテーションの意義を歪曲したと感じさせます。ゆえに、重要ではあるのですが、あえて些末といった表現を使用しています。
プレゼンテーションの全体プロセスにおける最大の問題点は、方法が目的化してしまうことです。ほんとうの目的とは何なのか。少なくとも、PowerPointやKeynoteのソフトでプレゼンテーションのネタを作ることではないのです。まして、バイヤーの行なうプレゼンテーションは、一生懸命作ったネタで実際にプレゼンを行って終わりでもない。私は、プレゼンテーションが終わってからどうするの、が非常に重要であると考えています。次の2つの例で考えてみます。
(1)友人からプレゼンテーションについて相談されました。自分の問題点を指摘してほしいと のこと。その友人は、自分のプレゼンする姿をDVDに落として送ってきました。そのDVDには、プレゼンテーションする姿を映す動画と、Power Pointのファイルが収められていました。友人は、個人顧客に保険、金融商品を販売しています。映像はがん保険をPRするものでした。
(2)以前勤務していた企業では、新入社員に論文作成を課していました。4月入社で、翌年2月末に論文提出。3月の中旬以降に発表会が行われます。私はOHP用に資料を作成しましたが、最近ではPower Pointを活用します。新入社員として一年間学んだことの集大成として、論文をまとめ、かつ発表するわけです。私は、自分が担当した後輩社員の論文作成そしてPower Pointを活用した発表の指導を行いました。
上記2つのケース。実は、時は違っていますが同一人物とのエピソードです。しかしテーマは大きく違っています。(1)は、プレゼンテーションはメインではありません。リスナーにプレゼンテーションを聞いていただいた後に、保障について不足感を感じてもらうこと 、そして不足している部分に対するソリューションを提供できるプレゼンターの存在を認識して貰うことが狙いです。一方(2)のケースでは、リスナーには満足感を覚えてもらうことが 狙いです。不足感と満足感という、まったく正反対のテーマを、プレゼンテーションで表現し理解しなくてはならないのです。また、プレゼンテーションのその前後の行動を類推すると、(2)ではプレゼンターは、プレゼンテーション実施をゴール とすることができます。しかし(1)では、プレゼンテーションは決してゴールではありません。その後のリスナーであるお客様とのコミュニケーションへとつなげて、なおかつ契約をいただかなければならない。ちなみに(1)で送られてきた映像には、プレゼンテーションが終わったことに満足してしまったプレゼンターの表情が読めました。私は、以前一緒にやった新人論文の発表とは、そもそもテーマが異なること 、具体的にはプレゼンの後の取るべき行動も違うことを指摘しました。
少し脱線しましたが、プレゼンテーションをどうやっておこなうか。テーマがしっかりしていれば、「どうやって?」の部分での工夫が生きてきます。繰り返しになりますが、プレゼンはまずテーマです。テーマをつめるのに、これからお話しすることは必要ありません。プレゼンテーションを完成するまでのプロセスをしっかり管理して、テーマが固まった段階でこれからお話しすることを実行してください。
1.パワーポイントといったプレゼンテーション用ソフトの活用法
私は、必ずしもプレゼンテーションにPower Pointは必要ないと考えています。テーマさえしっかりしていれば、ワードやメモ帳をスクロールすることでも立派にプレゼンは可能です。
しかし、一回に複数のテーマがあるようなプレゼンテーションの場合、また内容が複雑だったり、一方通行(報告)的 でリスナーが多い場合は、Power Pointは有用なツールになります。私が実践する活用法としては、できるだけ細かいテーマで括ってファイルを作成することです。バイヤーとサプライヤーでは、まずQCDという括りがありますよね。細かいテーマで作成しておくと、一回作ったら以降再利用できる可能性が高まります。サプライヤーは千差万別といっても、出張なども似通ったテーマが多いはずです。また、バイヤー企業の販売側市場環境を説明するファイルなどは、どのサプライヤーにも共有して有用な情報となります。
標準的な内容を組み合わせることで、個別のサプライヤーへの一期一会的なプレゼン作成へとつなげることもできるわけです。 極論すれば、表紙の訪問先の会社名だけ変更すればいいわけです。パワーポイント活用最大のメリットは、組み合わせ・順番が自由自在に変更可能である点です。
2.プレゼンテーション方法のバックアップを確保しておく
準備の時には問題なく稼動していたPCの調子が思わしくない、PCとプロジェクターの相性が悪く(最近は少なくなりましたが)、画像が投影されない。そういった問題は、プレゼンテーションの機会を多くすればするほどに増大します。プレゼンテーションを行う際の最大の敵は、設備の影響を受けてプレゼンテーション不能となる事態です。まして、これまでプレゼンテーションをしてこなかったバイヤーがやる!と宣言したわけです。聞く側の期待は、いやおう無しに膨らみますね。しかしPCの調子が悪くて、手間取り、最悪はプレゼンテーション不能となってしまう……リスナーのプレゼンテーションへの期待が崩れ、せっかく訪問した意義さえ疑われてしまうかもしれません。それこそ、主導権が握りづらくなります。
私は、PC本体なりプロジェクターとの相性なり、ハード面で問題があった場合、すぐにパソコンでのプレゼンテーションをやめてしまいます。出張では、基本的に相手に意思が伝わり、理解されれば良いわけです。であるならば、自分が思い立ったプレゼンのテーマのサマリーを、A4一枚程度にまとめて作成しておく わけです。二度手間と思われるかもしれませんが、先の1で述べた過去作成したファイルの組み合わせで新たなファイルを作成する場合、プレゼン全体の論旨・その整合性を確認するのにこのサマリー作りは不可欠です。そしてサマリーを事前に2枚準備しておく。一枚は、メモしても良いように。そしてもう一枚はバックアップ用としてコピーをお願いする場合を想定して、です。
3.ツールを活用するならば、必ず慣れておく
現在では、さまざまなプレゼンのツールが販売されています。私も以下のツールを活用しています。しかし、どんなツールでもプレゼンテーションの場で使用できなくては、意味がありません。最近のパソコンは無線(Bluetooth)を活用して、遠隔での操作が可能です。プレゼンテーションであれば、Power Pointで不可欠な画面の推移を、パソコンから離れて行うことが可能です。ツールは「できる」でなく「慣れる」事が必要です。本番のプレゼンの舞台で、操作方法に手間取ることは、もっとも避けなければならない事態なのです。
(1)Microsoft Wireless Notebook Presenter Mouse 8000
これ一台で、
・ マウス
・ レーザーポインタ
・ Power Pointのスライドショーの操作
が可能です。サイズも小さく使い勝手は良いのですが、壊れやすい(?、使い方が激しすぎるのか)のが難点です。ちなみに私が今使用しているのは3代目です。
(2)スライドショーリモート
この手のiPad/iPhoneアプリは、沢山発売されています。先ほどは、パワーポイントのスライドショーをマウスで操作しました。基本的な原理は同じで、これはiPad/iPhoneで操作するものです。マウスとの違いは、実際に画面表示を見ながら操作が可能なこと。また、パワーポイントに装備されている発表者ツールを同じような画面が再現されます。私はあがり症で、よく話しながら「あれ、次のスライドってどんなんだっけ?」と忘れてしまうことも多いのです。こういったツールは、長いプレゼンを行うときに本当に便利です。
4.配布資料はどうするか
これは、スクリーンに投影される字の大きさと、プレゼンターの意向に依存します。会場とスクリーンの大きさに合わせた文字の大きさでスライドが作成されていれば、資料を配布する必要性は薄まります。スクリーンに集中してほしいと節に願う場合は、資料をあえて配布しないとの選択も、私はアリだと考えています。
しかし、私の経験でも実際にプレゼンテーションを行ったスライドのコピーが欲しいとのご希望は非常に多いです。昨年出席したISM総会でも、プレゼンテーション資料を配布しないケースは全体の2割程度。残りの過半数を超えた8割は、紙もしくは電子データで配布しています。大勢に準じれば配布すべきでしょう。
5.質問対策
これもプレゼンテーションの趣旨に大きく依存します。報告が目的の場合は、基本的にあらゆる質問への準備が欠かせません。その場では無理でも、後で必ず回答することが必要です。今回想定しているバイヤーが行うプレゼンテーションでは、その場の主導権掌握が主な目的ですので、わかっていることとわかっていないこと(これから決めること)の線引きを明確に行えばよいはずです。質問は、それこそ一緒に討議すればいいわけですね。
バイヤーが行うプレゼンテーションについて、これまで4回にわたってお話してきました。これをお読み頂いたバイヤーの皆さんが、サプライヤーのペースに乗せられることなく、自ら主導権をもって、より良い調達・購買活動を実践されることを願っています。プレゼンテーションは、数多く機会を作れば作るほどに、内容が研ぎ澄まされてゆきます。そして、よくよく考えてみてください。たとえば、上司・同僚、そして部下や後輩たちに説明することは、もうすでに立派なプレゼンテーションなんです。ということは、普段から実は誰もがその機会を得ていることになります。ただ、それを意図してやるかどうか。意図して行えば主導権が持てて、コントロールへの近道となる。ぜひ、意識して日々プレゼンテーションを行って頂けたらと存じます。