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ボーナスのあと~バイヤーとしての新しい生き方を提案する②
Aさんというバイヤーがいるとする。
半導体の購買担当で、入社7年目。サプライヤーとの人脈も多く、製品知識も営業マンと対等に交渉できるほどはある。毎年定期的なコスト低減の実績もあり、さらに向上心も高い。
Aさんは、現在の職務を継続しながら、「A株式会社」を立ち上げ、属していた企業と再度契約を結ぶのだ。
一体こうすることによって何が変わるのだろうか?
まず社長になることができる。1名だけの会社であるが、名刺には「代表取締役社長」と印刷でき、奥さんを秘書として雇うことも可能となる。
そして、企業とその「A株式会社」との契約は、業務委託契約ということになるだろう。
企業は、その「A株式会社」の口座に毎月支払いをし、AさんはあくまでもそのA株式会社から報酬という形でお金を受け取ることになる。
一人が高額の報酬を受け取っていては、日本の税法では累進課税で税率が高くなるので、奥さんと報酬を二分することにより、税率を抑えることも可能となる(もちろん、奥さんが実質的な労働者であることは必須だ。それでなければ、単なる脱税になる)。
企業にとってみても、一従業員を雇用することで発生する莫大なコストを削減することができるようになる。
あの、わけのわからない、保養地などに代表される福利厚生も削減でき、親睦目的の運動会などというムダ金も削減可能であり、場合によってはオフィススペースという空間維持費も削減できる。さらに大きいのは、企業が現状半額負担している社会保障費だ。
そして、企業と個人にとって一番大きいことは、従属関係から、企業間契約という対等な関係にシフトすることだ。
コスト低減のプロジェクトに参加し、1千万円の報酬を受け取ることも可能であろうし、あるいは現在の購買担当職務を続けながら、コスト低減率に応じた報酬を受け取ることも可能になるだろう。
そして納税の時期には、自分がバイヤーとして成長するために使った費用や、電車代から消耗品購入に至るまで、総点検し、まさにコスト意識の高いビジネスパーソンに生まれ変わることができるだろう。
パソコンや通勤に使うクルマだって、経費として計上できる可能性もある。会社に依存せずに考えるようになること自体、すごいことだ。
しかも、これは「集から個へ」「ノマド」「自立した個人へ」といったテーゼとも合致する。
もちろん、多くの問題があることは分かっている。
評価の問題がこれまで以上にクローズアップされるであろうし、企業に属すことの安心感が損なわれることも否定できない。
しかし、それでもなお、バイヤー個人の法人が生まれ出せば、バイヤーの職業観は一変せざるをえない。
コスト低減と購買戦略に対して、敏感になり、試行錯誤を今まで以上に熱心にやるだろう。
真の意味での自立が可能となる。
そして間違いなく、個人法人のバイヤーはスキルを開発し、なによりも自由を得ることができるだろう。
この文章は、フリーエージェントをむやみやたらに賛美するものでは決してない。
バイヤーという、最もスキル開発が遅れがちな領域であり、かつ多くの人たちが悩んでいる状況を打破するための、「突飛な」提案だった。
加えるならば、各社がコスト低減を強力に進めつつも、なかなか効果が出ずに手法を模索中の現在、このような個人の法人(フリー)のバイヤーを生み出し、各企業に紹介するということ自体がビジネスになりうるのではないかとすら私は考えている。
転職が一般的になる、と80年代に予言した人は笑われた。そこから20年経って、転職は「当たり前」のことになった。おそらく、フリー化が一般的になる、と予言すれば、笑われるだろう。しかし、フリー化の時代は近い、と私は思う。アメリカでは、3000~4000万人の人びとが、すでにフリーエージェントとして活躍しているという(統計にバラつきがあるのはご容赦を)。
その意味で、私は「自由」というものを誤解していた。「自由」とは獲得するものだと、ずっと思っていた。しかし、「自由」とは突然やってきて、私たちをさらっていくものだったのだ。