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下請法ともあろうものが(1)
「それ以上の説明はやめろ!!」
バイヤーは上司の制止に驚いた。
ある連絡会のときだった。しかも、ネガティブな題材の会議のときだった。
その数日前のこと、そのバイヤーに対して「当局からの調査が入った。お前の行為が脱法ではないかと疑われている。説明せよ」という連絡があった。
ただでさえ公正に取引することに努め、礼儀正しくすることを常に心しているバイヤーにとっては青天の霹靂だった。
「何を脱法したというんですか?」
「下請法だ」
それはこういうことだった。
3ヶ月ほど前に、バイヤーは下請企業から見積りを入手、発注履歴から比較しても問題なく、目標コスト以下であった。そこでバイヤーは通常通り注文書を発行。なんてことのない8千円ほどの電源のスイッチングユニットだった。
その2日後にサプライヤーから連絡が入る。「あ、ごめんなさいね。見積りの中で5円のボルトを50円で計上しちゃっててねぇ。見積り出しなおしますよ」と。そのバイヤーはたかが45円くらい、と思ったもののこれまでの関係からわざわざ言ってくれたので45円を減額して発注訂正した。
まさに、これが「問題だ」という。「下請代金の減額の禁止」に抵触するという。
下請法の精神は、不当な行為で下請事業者の利益を損なうことを禁じる、というものだ。
その精神から見て、どれだけそのバイヤーの行為が反しているというのか?
そう思ったバイヤーは、数日後の会議で堂々と自説をぶった。
「なにやら、こちらが強制的に減額したように思われているようだが、全く違う。話し合って決めたことだ」
そういう内容を語っていたところ、そのバイヤーの上司は一言だけ叫んだ。
「それ以上の説明は止めろ!安く発注訂正したことが間違いだったと言え!」と。
・・・・
そのバイヤーは私だった。
今日も何社ほどの購買部が下請法講習で忙しいだろうか。
下請法の本質とは「下請法対象企業とは取引をするな」ということである。
これは皮肉だろうか。それとも誤った理解だろうか。
公正な取引を実現する社会のために--特に資本金の差によって上下関係が醸成されてしまうところに--下請企業保護を目的とした整備が必要だ。なるほど、この思想は評価できる。
しかし、この法律下で見られるのは、「下請企業から月末ギリギリに提出される高い見積りにどうしようもできないバイヤーの姿」か「将来の設計変更も加味して強引に安い価格をゴリ押しするバイヤーの姿」である。
特定の企業を保護しようとする取り決めは偽善である、という意見を聞いて怒り出す人は本物の偽善者なのだろう。
本来は、製造業一般などは真面目で支払いが遅れるといってもわずかの期間である。交付書面に不備があるといっても、口約束で仕事が決まるような業界などとは訳が違う。
少なからぬ場合、下請企業の書類提出遅れで見積りの交渉ができないときもあるし、価格変動がサプライヤーの責任によって引き起こされることもある。