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交渉と脅しの臨界点(1)
「それはウチの勝手でしょ!!」
営業マンは、呆れたように叫びだした。
次から次へくる質問。
バイヤーと設計者から次から次に要求される資料。
何度にもわたる資料の訂正。
何度にもわたる説明。
その営業マンは受注はした。しかし、そのあとの手間が半端ではなかった。
しかも、発注が決定してから繰り返されるバイヤーからのコストダウン要求。
加えて、バイヤーは、その営業マンの企業が比較的弱点領域としている箇所ばかりを攻め立てた。
「何でこんなに他社比高いんですか?」
「何でこんなに工程が長いんですか?」
しばらく我慢していた営業マンだったが、バイヤーからの次の一言にはカチンときた。
「何でこんなに利益率をとってんですか?」
営業マンはついこう叫ぶのだった。
「そんなこと、ウチの勝手でしょ!!それで競合で勝ったんだから!!」
・・・・
バイヤーになったばかりの私は、いつも競合で勝ち発注を決定したメーカーに交渉を重ねる年配者の姿を見て疑問に感じていた。
なんでこれ以上の交渉が必要あるんだ?
なんで競合で勝ったところが、これ以上コストを下げようとするインセンティブが生じるんだ?
こういうことを考えると、よくわからなかったのだ。
それから、いくつもの交渉学の本を読んだのだが、それらは全て「交渉する」ということを前提にしていた。
これは驚きであった。
考えれば、本当に購入する気のないメーカーであれば、そもそも交渉をする必要すらない。
逆に、どんなに脅したって、「本当に買う気のない」メーカーであれば、交渉すらしないわけだから、交渉をするという時点で相当有利な立場にいることは間違いないのだ。
そして、交渉といっても、そこから買う気満々であれば、交渉がいかに高尚でも役に立たない。
ここに交渉学の本質的な落とし穴がある。
しかし、それでもバイヤーは発注を前提としたサプライヤーに交渉を挑まないといけないのだ。むなしい戦いに参加せねばならないのだ。
そして、むなしい試みと知っているバイヤーが今日も言われているのであろうか。
「そんなところまで、もう交渉しないで下さいよ」と。