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交渉に「キレること」は有効か?
交渉や会議の場で、相手から辛辣な批判や指摘を受けたとき、どう対応するか。これは「感情がコントロールできているかどうか」を試されている瞬間です。怒りたくなっても、冷静に毅然とした切り返しをしなければなりません。
しかし「キレること」が有効である場合も、稀にあります。
それは既に決まった案件の、追加内容に関する価格交渉の場で起こりました。
当時私は営業担当者。元々の見積範囲に加えて、いくつかの追加を顧客から要求されていました。明らかな追加です。追加内容によって発生する供給範囲を明確にし、社内的に発生するコストを踏まえて、追加見積をお客様に提示しました。
すると、なかなかお客様が認めてくれません。私は指摘事項に関する資料を揃え、二回お客様の元を訪れました。しかし、らちが明かないのです。そこで三回目の訪問は、当時の上司に状況を説明し、同行をお願いしました。
今思えば、若輩者(私のこと)でなく、然るべき人間を連れてこいとの意味だったのでしょうか。これまでの二回の話し合いと比較すると、終始和やかに話が進みました。そして、最終的な価格の合意に至るその時です。
「それでは、何度も通ってもらったから交通費ということで…」
先方の担当者が言いました。私にしてみれば、交通費だろうとなんだろうと、ここ数週間懸案だった追加請求が完了することに喜んでいました。しかし、同行をお願いした上司はお礼どころか、次のように言い放って席を立ちました。
「我々は、元々の見積に含まれていなかった内容について、追加で請求をしているわけで、何度も通ったのはお客様にご納得頂きたかったから。交通費代わりにもらうなんて、そんなことは考えてもいないし、そんなものは要りません!」
私は慌てて書類とメモを鞄に詰め(当時パソコンはまだ一般的ではありませんでした)慌てて上司の後を追いました。えっ?!なんで認めてくれるって言ったのに、帰っちゃうの?!勿体ないじゃん!!と思いつつ。すると、お客様が駆け寄ってきてこう言いました。「交通費代わりなどと、失礼な物言いをして申し訳なかった…」結果、追加請求はほぼ満額を認められることになりました。
こんな例は、二十数年間の社会人生活で一回だけです。こんなこともあるからと、話し合いでキレることを奨励するつもりもありません。なぜ、こんなことが起きたのか。再現性もないし…でも、忘れられない思い出です。今でも、この上司と飲むときは、この話を持ち出して「なんでキレたんですか?」って聞いてみます。でも、本人まったく覚えていないんですよね~天才的に話し合いの潮目を読むことが上手なヒトでした。私の今でも超えられない目標となっている方です。