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哀れバイヤーはどこに行く(1)
「おれたちゃ、どこにいけばいいんだ!!」
ある日の定時後のこと、購買部全員が一ヶ所に集められた。人事に関する会社方針が決まったので説明する、というのだ。
その説明が始まって、しばらく経っていた。ある若手バイヤーは退屈そうに聞いていた。
しかし、その退屈さを打破してくれる出来事が起こった。
その集まりで、白髪交じりの紳士が発言者をさえぎって、突然話し始めたのだ。
いてもたってもおられないようだった。
なんだか、だいぶ興奮した様子で、その老紳士はその集まりの代表者に叫んでいた。「どうやら、大変なことらしい」とそれを見ていた若手バイヤーは思った。
その集まりとは、会社全体の方針として決定された定年退職者の再雇用制度に関する説明会のときであった。
会社の決定はこうだった。
・基本的には60歳で定年退職とする
・勤労意欲の高い者に関しては、各部門の基準に照らして再雇用の試験を設ける
その老紳士を興奮させたのは何によるものだったのか。
それは、購買部の再雇用基準が、「パソコンのツールがある一定レベルできること、英語力がコミュニケーションできるレベルであること」、だったからだ。
要するに、その老紳士からすれば、「購買という本質を分かって」おらず「本当に大切なもの」を伝承できない基準であるという。
したがって、(想像するに)その基準を全く満たすことができないその老紳士は、目の前に迫る自身の退職を前に、こう叫ばざるを得なかったのだ。
「もう働けないじゃないか。おれたちはどこに行けばいいんだよ!!」
それを聞いていたバイヤーは複雑な思いにとらわれていた。
・・・・
その複雑な思いにとらわれていたバイヤーは私だった。
そのときに思った感情を正直に語っておくならば、こういうことだ。
一つ目。
会社は、明らかにベテラン購買部員の存在価値を認めていなかった。この老紳士は、認められなかったという事実をなぜ素直に反省できないのだろう。哀れだ、ということ。
二つ目。
伝承したい大切なものを本当に持っているならば、なぜ今まで若手に伝承しようとしなかったのだろう。あるいはあと1年あれば、たいていのことは教えられる。なぜ雇用延長が必要なのか。
三つ目。
会社が求めていないのに、そんなにその会社で働きたいのか。プライドはないのだろうか?なぜ、自分で道を拓こうという気持ちがないのだろうか。
まぁ、ざっとこういうことであった。
一方で、品質管理のプロフェッショナルはもっと緩い条件で再雇用されているし、実際韓国あたりの電気メーカーでは日本企業出身の品質管理、生産管理担当者がひっぱりだこだと聞く。
要するに、今までのバイヤーたちがその存在意義を明確にアピールできていなかったのである。
それだけの話なのである。
ごくまれに、バイヤー業で、天下りではなく定年後にヘッドハンターを通じて再就職なさる方がいたが、数はわずか3人しか知らない。
しかし、それにしても逆説的に、「ではそうならないためにはどうしたらよいのか?」という自問を与えてくれるエピソードであった。