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売価とは一体なんやろかい(1)
「あの男は俺が殺した」
居酒屋で前に座った上司は、焼酎を飲みながら話し出した。
もう5杯目をこすであろうとき、かなり酔っ払った調子で、その上司は静かに語りだすのだった。
目の前には、バイヤーの部下が二人。「たまには飲みに」行くか、と誘われた部下二人は、その顔が暗かったので「何かあるな」と直感的に悟っていた。
場所は、兵庫県のとある居酒屋。
何気ない話から始まった会話は、じきにその数ヶ月前に自殺した、他の事業所の購買マネージャーの話題となった。
「あの男はね。俺が異動する直前に作った購買マンの評価制度に悩んでいたみたいなんだ」
「矛盾をね、感じていたらしんだけれど。まぁ、マネージャーっていっても、そう簡単に上司には逆らうことができないもんな」
その「上司」は黙々と焼酎を飲みながら、話し出すのだった。
・・・・
以前、遠い関西で働いていたことがある。
その上司も、とある地方の購買管理職から異動で来ていた。
「殺した」というその上司は、以前プレス品のバイヤーをしていた。
このプレス品の潰し工程はいくら、この曲げ工程はいくら、このピアシング工程はいくら、この形状出し工程はいくら。
そのような、生産工程の明らかなバイヤーばかりやっていたものだから、購買思想はついつい「買いの値段は、理論的に説明できる」というものになっていた。
「こういう材料を使い、このような工程を経るのだから、必ずこのコストになるはずだ」
そのような思想は、若い頃に生産現場で働いていたことも影響し、強く強くなっていった。
この人が購買の上に立ったとき何をしたか。
それは「各マネージャーの評価を、各課単位で行う。その際、各課が理論売価より、『いくら安く買っているか』で判断する」というものだった。
この人は即座に主要品のコストテーブル化を各課に依頼した。
成型品などはたやすい。一番困難だったのは、半導体部品を担当していたところだ。
その課のマネージャーが「半導体や電子電気部品はコストテーブル化が難しい」といっても、その人は「いやぁ、だってウエハーから計算して、エッチング工程とか計算したらコストは算出できるだろ?」と譲らない。
そうやって譲らない結果、無理矢理、半導体部品もコストテーブルを作成して評価が開始された。
そしてその上司は異動。
成果が出ずに迷いに迷ったそのマネージャーは、部下の業務を肩代わりし、サプライヤーになんとかお願いする毎日。
そのマネージャーはその後自殺した。