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夏休み前に ~ 生きがいを探すということ(1)
「大卒なのになんでこんなことやってるんだ」
そのバイヤーは驚いた。
工場に着くなり、渡されたのは、薄い灰色の作業着と軍手。
身につけていたネクタイをはずし、ズボンも脱いでロッカーに入れることを指示された。
そして、簡単な安全教育。
その後はイキナリ現場に連れ出された。
「ここに荷物が届く。そしたら、部材をピックアップする工員がいる。しかし、完全に人手が足りるわけではない。たまにラインで部材が足りなくなることがある。どこかのラインで部材が不足したらそれを素早く持ってきてくれ」
たったそれだけの指示だった。
すると、すぐにあちらこちらから赤いシグナルが鳴る。
「ライン異常」のサインだ。
そこにバイヤーはとりあえず走る。
何が起きたのかは全く分からない。ただ、部品が足りず、工員は急いで作業をやりながら、少しの時間を浮かし、部材を集めに翻弄しているのは分かった。
ラインわきにセッティングされた部材が不足しているのだった。
そのバイヤーは工員の指した先にある部材置き場に走って取りにいった。そして走って戻ってくる。
やっとそこには部材が充足され、一段落。
すると、違う赤いシグナルが点灯しだした。
・・・・
私は二度ほど、仕事の関係で中国に行ったことがある。
「最初は勉強もかねて、行って来い」とのことだった。
目的はサプライヤー調査と、自社工場の手伝い。
サプライヤー調査が終わり、自社工場に行ったとき、「現場を知らねばいけないから、まずは現場の手伝いをするように」と言われた。
そこで差し出されたのが、薄い灰色の作業着と軍手だった。
最初はバタバタするだけだったが、2日ほど経つと、この汗の意味がわからなくなってきた。
「自分はこんなところで何をやってるんだ?」
言葉も通じない国の工場で、汗だくになりながら、単純作業を繰り返す工員と私。
私は何かの間違いではないかと思った。
くしくも、出発の日、私と同じ大学を卒業した同期がたくさん入社している、日本生命だとか東京三菱だとかの平均給与が1400万円だとか、そういう記事を週間ダイヤモンドで読んだことを思い出した。
「あいつらが今ごろ涼しい部屋で仕事をしている間に、自分は何をやっているんだ?」
作業着は背中も汗だくで、ときには1日に2回も作業着をかえなければいけないときもあった。
昼休みのロッカーで、「大卒で何をやっているんだ?」と考えてしまったことを今でも思い出すことができる。