定年退職者とバイヤーと(1)

定年退職者とバイヤーと(1)

「バカヤロー!!あっちに謝れ!!」

その若手バイヤーは初めて灰皿が飛ぶのを見た。

しかも、その灰皿は自分に向かって飛んできた。

ある会議の席上のことだった。

そのバイヤーは、その前の用事が長引きどうしても会議に遅れて参加せざるを得なかった。バイヤーは会議室を出るなり、走って次の会議室へと向かった。

バイヤーが会議室に入るなり、熱気に包まれた状況を見た。どうやら、自分の代わりに先輩バイヤーが会議を仕切ってくれているようだった。

バイヤーはつい申し訳ない気持ちでいっぱいになり、ついその先輩バイヤーに目を合わせるなりこう言った。

「遅れてしまい、大変申しわけありませんでした。」

すると、その先輩バイヤーはすぐさま手元の灰皿を取って、若手バイヤーに投げつけたのだった。

「コノヤロー!!謝るなら、まずこちらさんに謝れ!!」

先輩バイヤーの指し示した先には、サプライヤーの方々がいた。

・・・・

そのバイヤーは私だった。

今考えれば、その叱責は当然のことだった。

社内の人よりも社外の人にまず礼を尽くさねば、どんな信頼も得ることができない。

しかし、である。

私がそのように社内の人にまず挨拶するのも、数々の先輩バイヤーが同じようなことをする姿を見てきたためでもあった。

バイヤーは何を勘違いしているのか、サプライヤーの方々を若干下の立場とみなすことがある。平気で待ち合わせの時間を延ばしたり、会ってもお茶すら出さない。

そういう雰囲気の中に包まれていると、「まぁ多少サプライヤーさんに失礼があってもいいさ」という感情が恒常化してしまう。

そのような失礼な態度のまま年を重ねた人は、そのまま墓場に行ってもらうしかないが、まだ入社一年目であった私にとってその大先輩バイヤーの数々の教えは非常に財産になっている。

その先輩バイヤーとは定年寸前の方だった。

私を、皆の目の前でも堂々と説教してくれたのは二人いるが、偶然にもどちらも定年寸前の大先輩からであった。

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