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当たり前と思っている常識はずれなこと(1)
「はい、もう下げりゃいいんでしょ」
電話口のバイヤーは唖然とした。
絶対不可能なコスト目標。
何度トライしても、そしてあの手この手で交渉を重ねても、全く下がらないあるハーネスサプライヤーのコスト。
バイヤーはあきらめようとしていた。
「こりゃ、無理だな。もともとそんなに高いもんじゃないし。これくらいのコストで買ってきたら上等だろう。社内も説得できるだろう」
そう思って、そのバイヤーはとりあえずサプライヤーの担当部長に電話した。
すると、最初の言葉が戻ってきたのである。
何も変わっていない状況。
何も変わっていない取引条件。
一体何が起こったんだ?
バイヤーはそう思ったのだが、とりあえずコストが下がることは嬉しい。
「ありがとうございます」と言い、電話を切ろうとしたとき、その営業部長はこう言うのだった。
「いやぁ、設計の○○課長から電話がかかってきましてね」
・・・・
最初の会社に入ったころ、何度このような経験をしたことがあったのだろうか?
前述のバイヤーとは私であり、度々このような場面に出くわしたことがある。
私が何度言っても下がらないコスト。
どうしようもない、どうしようもない、そう考えていた。
しかし、お偉い人がそのサプライヤーに電話をして、少し交渉しただけでコストが下がるのだ。
「ちょっと、なんかカネの話でもめてるみたいじゃない。ちょっと購買の方に、1000円くらい下げた見積もり出しといてよ」
こんな感じで、設計課長はサプライヤーに電話で交渉して、「見事に」コストを下げてみせるのだ。
これまでの経験と付き合い、そして立場。
色々あるだろうが、コストが下がったことは間違いない。
バイヤーがどうしようもないことが、鶴の一声で解決してしまう。
そのようなことが何度かあった。
・・・・
正直に言えば、私はこのような行為をとったサプライヤーに怒りの声を上げたことも一度や二度ではない。
「なんで、私が交渉してもダメだったものを、簡単にコスト下げてしまうのだ」
「やはり、あなたがたはそういう立場を考慮して仕事を進める人たちなのですね」
このような皮肉を言ったこともある。
加えて、そういうことをしたサプライヤー自体を、戦略協同メーカーから外そうとする先輩バイヤーも見たことがある。
しかし、今の私の考えは少し違う。
単純に、自分の力で成し遂げられなかったことを、上司や立場が上の人に成し遂げられた場合、バイヤーは「恥ずかしい」と思い続けなければならない、ということだ。
中には、「バイヤーっていっても単なる担当者でしょ。やっぱり上の人に頼んでもらうことが一番得策だよ」などと、仕事をナメたことを言う若手も多くいた。
しかし、このようなことはバイヤーが考えるべき問題ではない。
上司は、そのバイヤーができる、と思っているから現在の業務を与えている。だから、バイヤーは必死にやればいいだけだ。できない、と思われればそんな仕事から身を引かされるだけだ。
定時で帰ってしまうあの年配者のように。