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情報××~××になにをイメージするか(牧野直哉)
・夕方に430万キロワットの需要減が期待できる。最近の原発には100万キロワット以上の出力があり、節電効果は原子炉3~4基分に相当
・最大で原子力発電プラント2基分にあたる約200万キロ・ワット分の電力消費能力
・270万kWの発電を見込むことが出来る。出力だけを単純比較すると、これは原子炉2.5基分
・原子力発電所約10基分に相当する1千万キロワット以上の発電量
・テレビの視聴をやめれば、原発一基分節電ができます!
・全国の自動販売機550万台の電力使用量は、概ね原発1基分
節電を巡る報道に登場する、原発一基分の使用電力量についての表現をひろってみました。上記の例だと、原子力発電一基当たりの発電量は、約100万kw~143万kwとなります。報道の中の原発一基分の発電量には、実に4割ものばらつきが存在するのです。
私が、この文章を書くにきっかけになった情報は、次のようなものでした。
「首都圏の各世帯で使用されている電球の一つをLED電球へ替えることで、原発一基分の電力を節約できる」
あるテレビ番組で紹介されていた情報です。番組の中では、停電の際に懐中電灯になるLED電球が紹介され、これだったら、1個だけだったら、誰でもできるとの論調でした。
でも、少し待ってください。マスコミは、無知な一般市民に対し難しいことをわかりやすく伝える使命があると考えていることはわかります。でも、電球1個の節電が果たして、ほんとうに原子力発電所一基分の節電に繋がるのでしょうか。
まず首都圏の世帯数を調べてみます。首都圏とは、首都圏整備法で関東一都六県+1県となっています。(東京、神奈川、埼玉、千葉、茨城、栃木、群馬、山梨)首都圏としては世界最大の人口を抱えています。平成17年度と少し古いデータなのですが、世帯数は1701万世帯となっています。先ほどの原発一基分は、白熱電球のLED化によって実現されるとのことでした。原発一基分の発電量はばらついています。単純に、原発一基分の発電量÷世帯数を計算してみます。
100万kw÷1701万世帯=58.7w
143万kw÷1701万世帯=84.1w
そして今度は、LED電球について、価格comのサイトで一番売れ筋(4月17日現在)とされているモデルで検証します。
30w形のもので、消費電力量は6.9wとなっています。白熱電球では30w消費するものが6.9wで済む。差し引き23.1wです。先の世帯数と想定される原子力発電所一基分から算出した削減ワット数には遠く及びませんね。それに、そもそも元になる原発一基当たりの発電量というのも、実に4割もばらつきがあります。今回の節電に必要な数値は25%です。前提条件に4割ものばらつきがあるのは、大きな問題を感じます。そもそも削減しなければならない数値よりも大きいですしね。
テレビで紹介された節電のすすめは、そもそも現在何wの白熱電球を使用していると仮定しているのでしょう。100wの発熱電球を前提にしているのでしょう。しかし、7~8年前には白熱電球に変わって、同じソケットで蛍光灯型電球が既に登場しています。私の家で使用しているものでは、21wとなっています。仮にこの21wの蛍光灯型電球を基準にすると、首都圏の全世帯がLED化しても、原発一基分の節電には遠く及びません。
そして、今回の節電のポイントは、ピーク使用量です。一番効くのは、電気を使わないこと。電灯であれば消すことが何より一番の節電となります。しかし日常生活の中で、どうしても使わなければならない電気はありますよね。その部分について節電を行なう必要があるわけです。
東京ドームや霞ヶ関ビルが単位として表現されるケースがありますね。面積的な広さとか、容積を表す場合、そしてこの表現を用いる場合は「へぇ~そうなんだ」で終わらせてよい時だけのはずです。今回の様に、経済に大きな打撃を与える大規模停電を避ける為の節電をしなければならない場合には、イメージで終わってしまうような「たとえ」を用いられると困りますよね。
テレビの使命として、今社会に必要とされている事を啓発することがあるのでしょう。でも、今回の原発一基分については、あまりにもその根拠となる数値が曖昧ですね。わかりやすさが高じて実態にそぐわない行動を促すことにならないか。わかりやすいが故に理解されやすいのかも。しかし、それが間違った前提によるものであっては困りますよね。マスコミのミスリードです。
節電といえば、冒頭の例で示したテレビ放送を止めるとか、自動販売機を止めるといった発言にも違和感を覚えます。今回の節電は、そうせざるを得なくなった経緯は別にして、少なくとも首都圏に居住する、首都圏へ通勤して働く人にすべて同じように課せられるべきです。特定の需要源への言及は、フェアーではないですよね。それこそ、節電は日本、少なくとも首都圏は一つになって皆で乗り切るべき課題なのです。経済活動への影響を最小限にして、どのように乗り切るのか。バイヤー一人一人にとっては、自社の効率化の大きなチャンスです。もし、電力使用量を25%削減してなお、昨年と同様のアウトプットが行なわれたら、これこそ称えるべきです。
そのためには、正しい情報を得ることがなによりも最初に必要です。先日行なわれた「東日本大震災に立ち向かうバイヤーの集い」でも、関連して行なわれたアンケートでも、寄せられたコメントの実に25%は情報に関するものでした。なかでも、情報収集に関するコメントが非常に多い。しかし、情報の分析への言及が非常にすくないんですね。中には、刻々と変化する状況に右往左往してしまった……といったお答えもありました。実は、自社とか自分が求めている情報がそのまま得られる事って少なくはないでしょうか。得られた情報の断片を、自分の欲する情報を得る糸口にする。いくつかの断片情報を組み合わせて、ある仮定を構築する。それができているかいないかで、対応にも大きな差が出ているのです。その差をつけたものは、情報収集能力でなく、情報分析能力にあるのです。マスコミに踊らされないためにも、です。