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想定の範囲を拡大しようとする試みは失敗する②
たとえば、災害緊急時に1000万円であれば、担当者判断でコストアップ品を調達しても良いとあらかじめ決めているところはどれだけあるだろうか。あるいは、MRPに関わらず、担当者判断でまとめ発注をしたり、倉庫残品を押さえておいたりする権限を与えているところはどれだけあるだろうか。
多くの企業は、承認に時間がかかったり、役員決裁に時間がかかったりと、右往左往していた。
今回の震災で、初速の対応いかんによって、その後の生産を左右した。震災前の「想定の範囲」がじゅうぶんだと思っていれば思っているほど、事後の対応が遅れている企業もあった。むしろ、事後の対応の仕組みを考えるべきだろう。
「想定の範囲」を拡大しようとする試みは常に失敗するからだ。
(参考資料)
メールマガジン「ほんとうの調達・購買・資材理論」
l 震災時の子供たち
調達・購買とは直接関係がないものの、震災に関わる一つのエピソードについて紙面を割いておきたい。また、聞いた話なので、信憑性に自信はない。ただ、とても印象に残ったので書いておく。
ある一人の子供の話だ。
その子供は、地震で命からがら生き延びたあとに、ある被災地に辿りついたらしい。ご存知のとおり、被災地といっても、場所によってはまともな食事もできず、暖もとれないところが多かった。一日、水とおにぎりと、パン。
それだけでも恵まれたほうだ。いまでは、だいぶマシになってきたようだけれど、なお悲惨なところもある。
その子供は、小学校の教室の隅でずっと座っていたという。
両親が見つからない、おそらく行方不明になったままの状態。その子供のショックは相当なものだったんだろう。ボランティアの人たちがパンを渡してもなかなか受け取らない。
あるとき、その子供も、限界がきたのだろうか。おにぎりを受け取ろうとしたらしい。でも、ボランティアの人が手渡そうとしても、手を握りしめたままだったようだ。
ボランティアの人は、その子供に、「何を握っているの?」と聞いた。でも、子供は答えない。
子供は右手と左手をしっかりと結んだまま、両手をグーの形にしておにぎりを受け取って、不器用に食べた。まるでドラえもんみたいだった。ボランティアの人たちは、精神的にまいってしまったのでは、と思ったようだ。
翌日も同じだった。なんでも、その子供は、ずっとずっと何かを握りしめていたみたいだった。ボランティアの人が何度か聞いていると、やっと心を開いたのか、子供がその手を開いた。
なんと、お金だった。
10円玉と100円玉が入っていたらしい。右手に10円玉、左手に100円玉。
ボランティアの人は、その子供を可愛い、と思ったらしい。
「お金を大切にしていたの? でも、大丈夫よ、それを盗もうとする人は、ここにはいないよ」と。
でも、子供は、ううん、と首を振って、「違う」と言った。
その子供は、「もうしばらくしたら、これでお母さんとお父さんに、電話をかける」って言ったらしい。「携帯番号がわからないけど、わかったら、すぐにかける」と。それが、その子供にとっての、10円玉と100円玉の意味だった。いや、それ以外の意味なんてなかった。
両親の声を聞くために、いつか電話番号がわかった瞬間にかけられるようにと、子供はずっとずっと握りしめていた。もう、この子供のお母さんとお父さんが生きているかもわからない。いや多分、この子供が、もう両親と会えることはないだろう。そうボランティアの人たちは思っていた。だけど、その子供にとって、両親と電話がつながることだけは、たしかな希望だった。
ボランティアの人は、「ごめんね」とだけ言って、落涙したそうだ。
そこから数日が経った。
私(坂口)は思う。この話がほんとうかは知らない。だけど、いまごろ、きっと、その子供は両親の番号がわかったと思う。両親の知人の誰かが、その子供を見つけて、きっと教えてくれているはずだ。
そして、今ごろはその子供は、両親と明るい会話を重ねているはずだ。
いや、きっとそのはずなんだ。
私たちが被災地にできることは何だろうか。