東日本大震災から半年にあたり(牧野直哉)

東日本大震災から半年にあたり(牧野直哉)

2011年9月11日で東日本大震災から半年が経過しました。マスメディアでも様々な特別プログラムを提供しています。私も調達・購買、サプライチェーンに携わるものとして、この半年を思い起こしてみたいと思います。

震災発生以降、日本ではこれまでに例がないほどにサプライチェーンが注目されました。日本で起こった震災で、海外の自動車メーカーの工場稼働がストップするなんて誰も想定していなかったのですね。しかし実際に北米の自動車工場は操業を停止しました。誰もがグローバリゼーションの進展を意識せざるをえなかったわけです。

私は現在関東に住み、勤務先も神奈川県です。地震直後こそ、ガソリンや水が不足したり、業務上でも供給が滞ったりする調達品が多数ありました。しかし、今ではすっかり日常を取り戻しています。サプライヤーだけでなく、いろいろな会社の調達・購買担当者ともコミュニケーションをとっています。すでに震災の話があまり話題になることがありません。私は多くのバイヤーがすでに震災を忘れつつあるのではないか、そんな危機感を強く感じています。

震災直後は声高にサプライチェーンの危機を唱え、根源を追求することなく「分散」を唱えたマスメディア。現在では、当初の見通しを前倒して復旧した日本国内製造業を褒め称えています。事実、5月の鉱工業生産は震災前のレベルに回復しました。確かに今回の震災の直接的な被害を受けることがなかった地域は、震災前の状態を取り戻したかもしれません。私自身は、すでに震災前と変わることがない生活を送っています。でも、これで良いんですかね。今回の震災で、日本だけでなく海外にまで及んだ影響への対処は終わったのでしょうか。

震災によるサプライチェーンへの影響と、対応策のキーワードとして語られる「分散」。確かに調達・購買の仕事をする上で、複数のソースを持つことは重要です。一つのソースに問題があっても、もう一つのソースから確保できる可能性があるからですね。しかし、今回の震災前にも複数のサプライヤーをソースとして確保していたケースもありますよね。実際に「分散」はうまく機能したのでしょうか。機能したケースもあれば、そうでなかったケースもある。では、機能した、しないを分けた岐路はどこにあったのか。岐路は企業によって、企業内でも対象製品によっていろいろです。私は、調達困難の答えが一元的に「分散」にあるとすることがとても危険に思えます。

私の友人に、間接材調達のマネジメントに携わっている方がいます。その方に震災影響を聞くと、ほとんどの調達品に影響がなかったそうです。うかがったお話を私なりにかみ砕いてみると、調達する財・サービスの汎用性が高いものほど、あらかじめ準備をしていなくても困ることはなかったのです。いうなれば、どこでも簡単に手に入るものは、震災時にも困らないわけです。では今回の震災で確保に苦労した、手間取った製品はどんなものか。いわゆる汎用性がないものになります。本来そういった製品の調達ソースを二つ、三つと持つことは困難なはずです。

このメールマガジンでも何度も書いていることですが、直接的な原材料でなく、生産プロセスに必要な溶剤や薬剤といったものが不足することで、調達が困難になったものがあります。集中と選択よって、結果1社独占状態になっていたものもあります。詳細を確認してソースそのものが一つである場合、どのような分散を求めるのでしょうか。また安易な分散は、コストのあらゆる面でデメリットになります。その点はどのように解決するのでしょうか。

そして最も忌むべき事態は、元に戻ってしまったことを良しとし、なんら改善を試みないことです。私は新聞紙上を賑わす「日本製造業への底力」といった賛美にこそ大きな危機があると考えます。元に戻ることであれば、同じような天災に襲われた場合、同じような事態が再度発生する可能性が高い。そんなところへ立ち戻ることが復興でしょうか。

とりあえず、震災直後の異常な状態からは脱した。であれば、今こそ震災直後に起こったことを思いだし、記録に留めることが可能ではないでしょうか。そして、自分の身近で起こったことと、世間一般で起こっていたことをクロスチェックしてみませんか。たとえば、サプライヤーからの供給が止まった。でも理由は千差万別なのです。そもそも生産設備に影響があった。在庫はあったけれども、保管状態や輸送手段の問題ですぐに供給ができなかった。生産設備も、在庫も無事だったけど、基幹システムが停電の影響でダウンして、すぐに供給再開できなかった。一言「供給停止」といっても、様々な原因が存在します。まず何よりも正しい原因を見いだすことなしに、対策を見いだすことなどできないのです。

震災後という異常な状態を切り抜けた今、それぞれに少しずつ異なる「原因」を突き止めませんか。その上で、想定されるリスクを定め、対策を打つ。これはとっても地味な作業です。これをやっても新聞に取り上げられることはないでしょう。日本の製造業を賛美することで元気づけられるということもあるとは思います。しかし震災リスクとは現実です。ないか、今の日本賛美論で喜ぶことは、霞を食べている気がしてなりません。本質的な原因を追及して、ほんとうのリスクへの対策を講じることが、今の日本には必要なのです。

震災直後の「世間の出来事」を知るための本

朝日新聞縮刷版

読売新聞縮刷版

河北新報縮刷版

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