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知らなきゃいけないこと。知らなくてもいいこと。(1)
「そんなことも知らないでモノ買ってんのかよ!」
月末の最終日。
そのバイヤーは、ある部品のコストを画面に入力した。
あとは、そのコストで上司の承認をもらうだけだった。
しかし、そのバイヤーは少し「このコストで大丈夫かなぁ」という懸念を持っていた。
いままでならば、自身満々に上司に書類を持っていっていたバイヤーが、「このコストで説明ができるんだろうか」と弱気になっていた。
そして、上司に書類とともに、承認のお願いを申し出た。
そしたらやっぱり、矢のような質問が飛んできた。
「これはなんでこのコストなの?」
「その理由は?」
「この工法は実際のそれと合っているの?」
「これは他の部品と比べても妥当なの?」
「これは、あの部品で代替できないの?」
「なんで、そもそもこの機能が必要なの?」
そのバイヤーは途中までの質問であれば返信できていた。しかし、「これは、あの部品で代替できないの?」「なんで、そもそもこの機能が必要なの?」という質問に至っては、万事休す、だった。
そのバイヤーは机に戻り、ギリギリの中で、サプライヤーに電話し、設計とも交渉するプロセスを愚直に繰り返すしかなかった。
そのバイヤーは、こう思った。
「そこまで知るのはバイヤーの仕事か?」
・・・・
月末の価格決定は、おそらく全国のバイヤーの最大業務だろう。
月末までには、その月に納入されたモノのコストを決定し、支払い処理にまわしておかないと、未払いが発生してしまう。
あるいは、コストが交渉未決着だと、多目の金額で支払いをしてしまうこともある。
ERPやSCMでもなんでもいいのだが、そういうシステムが進もうがどうであろうが、そのコストを決定するというアナログなドロ臭い領域が無くなることはない。
月末には決めないといけない。
この制約を前提として、月末になって突然高いコストを持ってくるサプライヤーがいる。
そして、それを利用するかのように、高いコストをドサクサに紛れて上司に承認させようとするバイヤーもいる。
しかし、以前私が仕えた上司は、そのような「月末制約理論」からどこまでも自由な人だった。
いつであろうが、リーズナブルなコストで決定することを信条とするこの人は、月末だろうが、インプット終了1時間前だろうが関係なかった。
最後の最後まで納得しないことには承認を与えない。
それがたとえ未払いになったとしても、自己の信条を曲げるには至らない、そのような人だった。
お分かりの通り、前述のバイヤーは私だった。
私は、繰り返し質問されるのだった。
「これはなんでこのコストなの?」
「その理由は?」
「この工法は実際のそれと合っているの?」
「これは他の部品と比べても妥当なの?」
「これは、あの部品で代替できないの?」
「なんで、そもそもこの機能が必要なの?」
・・・・
自分の名誉のために言っておくが、このときであっても、予算よりも高い金額でコスト承認をもらおうとしたことは一度もなかった。
しかも、納入に問題があったわけではない。
さらに設計者とも、私より上手くやっているバイヤーはないだろう、と思えるほどコミュニケーションも上手くできていた。
それでも、上司は、特に私を許さないのだ。
「10年かかるところを、3年でお前に教え込んでやる」と宣言したその上司は、その製品の存在自体まで踏み込んで私に訊いてくるのだった。
私は、そのとき悩みに悩んだことを覚えている。
どうしてもバイヤーは設計から与えられたスペックを疑わずに、そのスペックを前提としていかに安く買うかを考える。
しかし、そのとき私に与えられた課題は、「そもそもそのスペックすらも疑って、一番リーズナブルな製品を考えろ」ということに翻訳できた。
そんなのは、そもそもバイヤーの仕事だろうか?
あるときは、こう訊かれたこともある。
「この製品が高性能なのは分かったけど、結局それは市場でお客様の喜びにつながるものなのか?」
こうなると私はお手上げだった。