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絶望購買にもってこいの夜(1)
「絶対ムリだよ!!」
そのバイヤーは驚いた。
ある話をしたら、周りの人が「ムリだ」というのだ。
しかも、悪い話ではない。コストダウンの話だ。これまで6千円で買っている光ケーブルを3千円にできる、しかも規格品だ。
これまで寡占状態のように調達していたサプライヤーから、台湾のサプライヤーに切り替える。
それだけでどれだけの費用が浮くだろうか。計算すると何千万円にも上ることが分かった。
これをやらない手はない、単純にそう思った。
だからバイヤーは、とある会議の席上でそのプランを述べた。
「このF社製の光ケーブルを置き換えましょう。なに、SCコネクタが付いているだけの簡単なものです。しかも、私が提案したいサプライヤーは大手も使用実績があります。そして・・・」
ここまで言いかけたバイヤーを制止する声が上がった。
「いや、お前、そんな全量なんてムリだよ」。先輩バイヤーだった。
そこから非難の声は止まらない。「供給リスクもあるし」「それよりも今までの付き合いもある」「いざとなったときに助けてもらったこともある」
どれだけの「不可能意見」が相次いだだろうか。
「なるほど、安くしない方がいいってことですね」と自暴自棄的にそのバイヤーはつぶやいた。
「いや、そういうわけじゃないんだが」と周りは言う。
「じゃぁ、変えましょう。全量を転注しましょう」そう言うバイヤーに先輩バイヤーは繰り返し言った。
「だから、ムリだって!全量なんか絶対できないよ!!」
・・・・
そのバイヤーは私だった。
こう考えればいい、と私は後年思った。
バイヤーのプロとは、すなわち「できない理由をたくさん知っている人なのだ」と。
少なくともその定義づけで、ほとんどの場合は解釈が可能だった。ほとんど例外もなく。
こう言うとまた皮肉が過ぎると言われるだろうか?でも、その定義づけで支障が出てことはない。
私の例では、私のプランを真っ先に受け入れてくれたのは、設計部門だった。「ああ、そんなに安くなるんだ?」と言ったある設計課長は次の製品から全量私の推薦のサプライヤーからの調達を認めてくれた。
もしかすると、最も保守的になっているのはバイヤーではないか。調達・購買部門ではないか、という疑問がそのときから私の頭の中から消えることはない。
多くを知れば、その制約条件が自ずと頭の中に刷り込まれる。これはどんな秀才でも、逃れることは難しい。
だからこそ、これまでの革命は全て蚊帳の外の人々から起きたのではなかったか。