行動する意義の有無を判断する基準(牧野直哉)

行動する意義の有無を判断する基準(牧野直哉)

最近、私の勤務先のおもだったサプライヤーを訪問しています。先々週から始めて、三週間で約20社を訪れる予定です。

目的は、事業おかれた環境を説明し、それにどのように対処していくか、最終的にはコストを下げてね、とお願いします。私はこういった自分から訪問することを過去にもやってきました。今回は数年ぶりです。久々におこなっても、前回と同じような印象を持つポイントが一つあります。

基本的に、相手の時間を使って、自社の状況とお願いをするわけです。手土産を持参して、丁重な対応を心がけています。一回訪問しただけで目的が達成するとも思えないので、基本的な合意が得られたら、早々に退散します。様々な業種のサプライヤーと話をしています。一つだけ、反応に共通点があります。どんなサプライヤーの担当者からもこんなコメントがでてきます。

「こういうことは滅多にありませんから」

「初めての経験です」

私が話をするのは、事業戦略に関わる話です。そして訪問先には、ものづくりの拠点である工場でなく、営業の拠点を優先して訪問しています。もちろん、地場のサプライヤーであれば、工場を訪問します。サプライヤーの営業拠点を訪問して、上記のようなコメントを貰うのは、まだ理解できます。でも、こんな風に思うのです。普通のバイヤーは動かないのだな。だからこそ、私のような普通でない=動きまわるバイヤーの存在価値が上がるのですけどね。

以前私がサプライヤーさんを訪問してまわったときと異なる点が一つあります。前回は訪問先のサプライヤーを担当するバイヤーとしての訪問。今回は、バイヤーの所属部門のマネージャーとしての訪問です。できるだけ丁寧な説明を心がけていると、思いも寄らない言葉が飛び出します。

「××さんがお客さんだったとは知りませんでした」

ちなみに××には、私の勤務先でもっとも重要なお客さまの名前がはいります。そんなこともお伝えしていないんですね、とお詫びを繰り返しています。そして思います。何度もサプライヤーさんにご足労頂いて、いったいどんなことを話しているのか。うちのバイヤーはなにやっているのだ?!と(笑)。

こんなこともありました。訪問のアポを取得する際に、サプライヤーがついでのときに話を聞くからと押し切られてしまう、こちらからの訪問を暗に断られてしまうのです。この活動で一番重要な点は「こちらから訪問すること」です。バイヤー企業といっても、サプライヤーにとってその重要性はまちまちです。まして、自社の購買量と、相手の売り上げをみてみれば、だいたいのサプライヤーにとっての自社のポジショニングも想像できます。ポジショニングを掌握したら、次はそのポジショニングをどう活用するか、そして低いポジショニングであれば、そんな劣勢をどう打開してゆくかが重要です。こっちから訪問すれば、相手の上位者に直接話をする機会を得られるかもしれない。そうすれば、自社の事業戦略にいくらかのこれまでとは異なる協力をえられるかもしれないのです。サプライヤーの様々なリソースを自社に振り向けてもらうのも、立派なバイヤーの仕事です。だから、一番のポイントはこちらから訪問することなのです。

たとえば、バイヤーが一番こだわる価格。産業購買の世界では、一物一価の法則はありません。購入物量やその他細かな条件設定で、おなじ物でも価格は購入者によって千差万別です。こんなことを考えるとき、物量がまとまらないから安く買うことができないと主張するバイヤーになってはなりません。なぜなら、バイヤーにとってまったく動くことなしにできる回答だからです。そしてもう一つの理由。購入ボリュームは、価格を左右する大きなファクターです。しかし、それだけで価格は決まりません。価格決定の大きな方向性に影響はするけれども、残り数パーセントのところで、バイヤーの動きは必ず影響します。他の、多くのこれから淘汰されるバイヤーと異なった結果を得られなければ、この日本で生き残ることはできません。多くのバイヤーと違う結果を得るためには、違った動きをすることが重要ですよね。違ったことの入り口である、みずから出向いて話をすることすら珍しがられる日本のバイヤーに、果たして未来があるでしょうか。

訪問したことだけで、購入価格を値引いて貰おうとは考えていません。あくまでも訪問はキックオフ的なものです。事実、一回の訪問の数時間の討議だけでも、今後の活動にいろいろな示唆を与えてくれます。ポイントは、今後どのように継続するための仕組みへと落とし込んでゆくかです。

またこういった取り組みは、たまにやるからこそ効果的ともいえます。実際にはどうしても日々の購買業務にフォーカスしてしまうのは理解できなくもありません。しかし、日々サプライヤーから見積を入手して、提示された価格に対して対処するだけではダメ、より付加価値をバイヤーとして求めなければならないのに、サプライヤーの営業拠点を訪問することが珍しがられる今に大きな問題意識を感じてしまうのです。

1. これまでやったことが無いこと

2. だれもやらないこと

3. 周囲を見回して他の同僚がやっていないこと

このどれか一つだけでも当てはまったら、やる価値があると思うのですけどね。

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