調達・購買の唯一の答えを見つける難しさ

調達・購買の唯一の答えを見つける難しさ

調達・購買とは、製造業の会社にあって、唯一モノづくりに関わる仕事です。経理部門がサプライヤーの工場まで製品を納入フォローしに行くことはありません。総務部門が、サプライヤー製品を定規で計測して交渉することはありません。

そのような立場にいる調達・購買部門であっても、自分一人では何をすることもできないことも事実です。モノを実際に組み立てるわけでもなく、設計するわけでもなく、生産工程を自ら組み直すわけでもありません。

調達・購買の仕事は、取ってくるものではなく、どちらかと言えば与えられるものになりがちです。「これ買ってきて」「これ納期フォローしといて」。どこに向けようもない葛藤の矛先は、対サプライヤーになりがちです。だから、自分がたいした人間でもないのに、サプライヤーに対して非礼な発言を繰り返すバイヤーばかりになっていきます。

そういうバイヤーばかりで良いのか、もっと知的に、かつ論理的にサプライヤーにあたるべきではないのか。と、そのように、学べば学ぶほどサプライヤーを上手くコントロールできるなら、まだ救われます。しかし、現実には勉強を重ねたバイヤーよりも、恫喝を交え強引に交渉するバイヤーの方が、安く速くモノを調達できることが多いはずです。

もちろん、脅しだけではいつか行き詰ります。しかし、理屈だけでも人は動かせません。「一人の人間として魅力のあるバイヤーになれ」と言われたって、そんな抽象的で曖昧なお題目では空疎に響くだけです。

あるいは、脅しでも「安ければ、それだけで良いか」というとそうでもありません。前述の彼のようにサプライヤーから見放される例もあります。やりすぎた交渉によって、サプライヤーが倒産してしまい、納入すらままならない状況を作ってしまうことだってあるのです。

それに、ふと周りを見渡してみると、年配バイヤーが必ずしも新人バイヤーと比して、加齢分の圧倒的な活躍をしているかというと、そうではありません。会社の中の教育プログラムに、バイヤーにとっての必要なスキルや知識が整備されていないことがほとんどです。むしろ、バイヤーにとって何が必要なのかが、実はみんな分かっていません。だから、「調達・購買とは、理屈ではない。理屈なきところに調達・購買の存在意義がある」とまで言ってしまう猛者すらいます。

調達・購買の難しさとは、唯一の答えを見つけることができないことにあるのです。あっちを信じて進めば、こちらの方が正解のように見えてくる。あっちを立てれば、こっちが立たない。まるで夏目漱石の一文のような、とかく住みにくい現実が、そこにあります。

某社のサプライヤー戦略の転換は、旧来のサプライヤー数を大幅に減らすものでした。それによるコスト低減効果は、ものすごいものです。しかし、同時に、切られた少なからぬサプライヤーはリストラを繰り返しました。某社は、そういう憂きサプライヤーを通じて、社会的批判を集めることになったことも、全体的な求心力を喪失していったことも、同時に真実なのです。

前述の彼だって、勤務企業があのような目に遭わなければ、サプライヤーから手のひらを返されることもなかったでしょう。でも、彼のようになる可能性は、調達・購買関係者ならば誰にだってあるのです。

経済学の本を読んでも、実際の「じゃあ、何をやったら儲かるのか」ということを知ることはできません。しかし、思いつくことはできます。私は、調達・購買の世界における、「答え」を書いていきます。しかし、それは私のある瞬間の答えであって、読者の答えにもなるかは実践を通して確かめるしかありません。

調達・購買とは、時と状況によって変化する「答え」を常に模索しながら、より良い姿を目指す一つの試みなのです。

そして、この蜃気楼のような「答え」を探し歩くことこそが、調達・購買の愉しさの本質である、とも付け加えておきます。

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