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購買と止め処ない哀しみ(2)
私の例で、問題を解決させたのは私ではなかった。
サプライヤーの工場に張り付いていると、一本の電話があった。
「帰って来い」と先輩バイヤーは私に一言だけ伝え電話を切った。
「帰る?」、それはいいのだが納期問題を抱えたままでは、どうしようもない。しかし、「帰れ」ということはそれ以上の問題が発生したのだろうか。
帰ったら問題は解決していた。その先輩バイヤーがありったけの人脈を使い、日本各地からその製品の在庫を探し当ててくれたからだ。
正確には代替品だった。「でも、設計者も至急『特別採用通知』を元に設計変更してくれるらしい」とのことで、「あとはここに発注処理しておけ」とのことだった。
私はお礼だけ述べて、処理をすると、なぜだかすぐに帰宅したことを覚えている。
その先輩バイヤーとの日ごろの会話はこうだった。
「そんなにたくさんの仕事できません」と私は言う。
「このくらいもできないのは、バカだ!」とその先輩バイヤーは言う。
「たくさん仕事があったので、ちょっとミスりました」と私は言う。
「できないなら最初っから言え」とその先輩バイヤーは怒る。
単なるイジメではないかと思った方々。その通りである。でも、それでいいのだ。
全国の先輩バイヤーは、ぜひ今年は後輩バイヤーに対して過剰な量を与え続けよう。溺れ死ぬかのような洪水の中に沈めよう。
後輩バイヤーは、その過激な量の中を泳ぎきり、「ヒマなのでなんか仕事を下さい」と平然とした顔で言ってみよう(本当に言ってしまう、のが大切)。
そして、若輩者のピンチには、先輩バイヤーは自己の総蓄積的職業能力を使って問題の解決に助力すればよい。
・・・・
若手の教育にとって大切なのは、(1)自己が達することのできないような購買という仕事の深さを思い知らせること (2)それを実践できる優秀な先輩がそばにいること (3)管理職が無能なこと だと私は思う。
私を含めた若手が思い上がるのは、「自分は何でもできるのに、給料と仕事がついてこない」と感じ出したときだ。
どんな世界でも極めようと思えば、そこには数年で覚えることができる簡単なことばかりではない。
到達できぬ、虚しさがある。哀しさの無限の広がりにも似たものが、ただあるだけである。
そういう思いを持っていれば傲慢になることもなく、粛々と日々の業務から学ぶことがある。より深化した業務に自ら身を投じることができるようになる。
運のよいことに日本企業では、管理職が無能であれば、どんなに自己の業務範囲を超しても許されることになっている。
そんなチャンスがあるのであれば、バイヤーはすぐに自己の業務範囲を越境してみることが大切だ。
「バイヤーは自ら創り出す機会で、自らを変えよ」