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赤鉛筆バイヤーから黒鉛筆バイヤーへ「これまでのバイヤー像から脱皮するために」
忘れられない一言があります。
私にとって、忘れられない一言とは、話の本題に関することではなく、さりげなく発された言葉の中でなぜだか心にひっかかる奇妙なフレーズのことです。いや、それが本題ではないからこそ、逆説的にその人の本音を象徴しているような気がしてなりません。
私がバイヤーになりたての頃のことです。大学の大先輩で私が尊敬して止まない方と飲む機会がありました。そのとき、私が調達・購買部門に配属されたことを告げると、その方は祝うどころか一言「それは気をつけなければいけないね」とだけつぶやくのです。それは、調達・購買部門はサプライヤーからおだてられるから、通常以上に自分の立場と実力をわきまえなければならない、ということでした。自覚しておかないと「ダメな人間になっちゃうよ」と。この後は、すぐさまそれまでのバカ話に戻っていったのですが、私はこのときの一言をずっと忘れられずにいるのです。
一期一会だと人は言います。しかし、一期一会ではなく一言一会ではないかと私は思うのです。新しい人との出会いも大切にしなければいけません。ですが、普段会っている人から、ふと聞いた一言も大切にせねばならないと思うのです。その一言には、自分を知ってくれているがゆえに発することができた教えに満ちています。
バイヤーは仕事に困ることはありません。出社すればどんなバイヤーでも各部署から「これを買ってきてくれ」「この見積りを入手してくれ」と、仕事が天から降ってきます。目の前の仕事で十分忙しくなってしまうので、自ら仕事を創り出す努力をすることはなかなかありません。むしろ、「こんなに忙しいのに、なぜ新しい仕事なんてやらなければいけないんだ」とすら言ってしまいがちになります。気づけば、いつの間にかサプライヤーや社内に対して、苦情ばかり言っている自分がいる。そのとき、私の頭の中でそっと昔の言葉がリフレインされます。「それは気をつけなければいけないね」。
ここで私はやっと正気に戻ることができます。社内に対して、「なんでこんなにどうしようもない設計しかできないんですか」と言っている自分。「こんなひどい見積りを出してこないでよ」とサプライヤーにいっている自分。それらは全て、彼らの存在を前提として、安全な場所から好き勝手に言っているだけではなかったか、と。
批判は簡単です。完璧な人はいないので、穴を見つけようとすることは誰にだってできます。ただ、批判するときに代案を出すことは難しい。批判される原案を創り出すことはもっと難しいのです。他人の仕事の採点者になるのではなく、常に仕事を創り出すこと。そして、その仕事を実現させるべく動き出すこと。これが出来ているバイヤーがどれほどいるでしょうか。