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赤鉛筆バイヤーから黒鉛筆バイヤーへ「新たなバイヤーは赤鉛筆を捨てる」
一人前のバイヤーになるとは、一人で仕事をこなせるようになるのではなく、悔しくて眠れない夜を明かす、ということです。
一人で仕事をこなすのであれば、これまでと同じやり方をやればセンスの良い人なら誰だってできます。批判するだけでそれなりの成果を上げることができるでしょう。しかし、それと自ら仕事を創り出すこととは全く異なるのです。自分で問題意識を持ち仕事にあたれば、新たなやり方を提案したくなります。提案し、各部門を動かし、次のステージに組織を引き上げたい気持ちになるはずです。
しかし、そうしているうちに、これまで調達・購買部門の誰も経験したことのないような壁にぶちあたります。そして、調達・購買部門の誰も経験したことが無いゆえに、打開策を自分で考えることになるでしょう。そして、自分の考えた仮説を試そうとして、失敗するでしょう。誰にも打ち明けることのできない葛藤の中でもがき苦しみ、悔しくて、悔しくて眠れない夜を過ごすことになるはずです。これを一人前になった、と私は呼びたい。
私がイメージするこれまでのバイヤー像とは、商談室の隣のタバコ部屋で赤ペンを手に、サプライヤーの見積りを査定し、偉そうにしている人です。「これは違う。ここも高い」。そう言ってはサプライヤーに脅しの交渉を繰り返す人。そういうバイヤーを見るたび私は心の中で「それは気をつけなければいけないね」と自分につぶやきます。
サプライヤーの見積りを責めるのは分かった。他人の仕事を批判するのも分かった。では、あなたの前に白紙の紙を差し出そう。他人の書類の上ではなく、白紙の上にあなたは一体何が書けるのか。赤鉛筆ではなく黒鉛筆で、どんなことを書けるのか。他人を鼓舞し、会社と自分自身に新たな価値をもたらす「何か」を書けるのか。
バイヤーを単なる受身の業務としてではなく、携わる人たち全てに一言一会をもたらす存在として定義しなおしたとき、全ての業務が変わらざるを得ません。それは他者の仕事ばかりを批判する今のありようを変えるということです。赤鉛筆を捨てるということです。自ら機会と仕事と心に刺さる言葉を創り出し、能動的な部門へと変換を遂げるということに他なりません。
それが可能になったとき。バイヤーの右手に握られているのは、赤鉛筆ではないでしょう。太く深い、黒鉛筆のはずです。
「赤鉛筆バイヤーから黒鉛筆バイヤーへ」。
これは単なる言葉遊びではなく、調達・購買部門の目指すべき一つの象徴なのです。
とここまで書いて、ふと私は思います。「私の言葉のうち、一つでも誰かの『忘れられない一言』になっているのだろうか」と。その一言だけのために、私の本が存在していたのではないかと思ってしまうくらいの。誰かの赤鉛筆を捨てさせ、黒鉛筆を握らせることができたのでしょうか。
私は今日も、その「一言」を探しに仕事に向かいます。