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転職とバイヤーと(1)
「一緒にビジネスやりましょうよ」
ある日、午後一番の会議に参加していたバイヤーに電話が入った。
「夕方のねぇ、5時頃。あのねぇ、近くに行く用事がありますから、寄りますよ。いいでしょ」
その紳士は強引に話をまとめあげ、そのバイヤーとの電話を切った。
「いつもながら強引だな」
そのバイヤーは思った。父親以上に年の離れている、とある商社の営業マンだった。
この人は--あえて「この人」と言ってしまうが--有名重電メーカーT社に入社。その後16年間をそこで過ごし、またしても有名半導体メーカーM社に転職。その後、昔のコネクションから新興商社に入って2年半が経っていた。
話し方は穏やかだが、仕事が異常に早い。さらに話し出すと、わけのわからないくらいコトバを連射して止まらない。
そして、夕方5時。
「いやぁ、2日前に辞めちゃったんですよ。今の会社ね。なんかねー社長と些細なことでケンカしちゃって。ほら、わたしなんか今の若い人よりもずっとサッパリしてるから。もう見切りをつけたんですね」
この早さと速さ--もう50歳にもなろうかというこのおっさんのスピードがある意味羨ましくバイヤーは感じた。
「今どうしているんですか?」。そのバイヤーが訊いた。
すると、その紳士は言葉をさえぎったのだった。
「そんなことよりねぇ、あなた。この会社辞めて、一緒にビジネスやりませんか?」