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限りなく灰色に近い競合(1)
「なんでこんなメーカーに決めるんだよ!」
ある製品の発注先を決める会議の席上だった。
その商品を開発するグループのリーダーは、本命のメーカーに発注しないという報告を受けて、怒りだした。
確かに、本命のメーカーじゃなかった。
でも、その本命のメーカーは今回選択しようとしたメーカーよりも15%ほど高かった。
何度かバイヤーがネゴした結果であり、元々は20%ほど負けていたのだ。
なぜ本命メーカーにそんなにこだわるのか、と発注先提案をしたバイヤーは思った。
そもそもこれは競合の結果だ。
しかも、どういうメーカーを競合に参加させるかは前もって連絡しておいたはずだ。条件をクリアにしておいて競合を実施した、その結果なのだ。
そこに嘘はない。
バイヤーは反論を試みた。「ここは一番安かったし、品質的にも過去問題を起こしたことはありません」
すると、そのグループリーダーは直ちに再反論をしてきた。
「だって、こんなところ戦略にも合ってねぇじゃねぇかよ」。確かにそうだった。
だが、戦略を立案したときの条件が変われば、戦略の変更は余儀なくされる。
それとなく、バイヤーは再々反論を試みた。だが、徒労に終った。
「彼」はこう叫ぶだけだった。
「やめとけ!なんでこんなメーカーに決めるんだよ!」
・・・・
そのバイヤーは私だった。
私が提示するのは成功した例だけではない。
前述の例の場合は、結果的にいわゆる本命メーカーへの発注が決まった。
言葉を変えれば、「もともとの戦略メーカー」だ。
このころから、私の中で「購買戦略とは何か?」というテーマが消えない。
おそらく、唯一しっくりくる答えは「購買戦略とは、『特定のメーカーを選択し、競合するように見せかけ、実は片棒担いで安価になるように誘導すること』」である。
こう言うと、また皮肉が過ぎるといわれるかもしれない。
しかし、こう定義すればよく理解できた。
だから、そもそも狙っていたメーカーが高ければ、強引にでもネゴで下げなければならない。
私が営業だったら「だって、その白黒をつけるのが競合でしょう?」とでも言ってやるが、そういう常識の付け入る隙間すらない。
挙句の果てには、各メーカーも発注予定企業がほとんど事前に掌握しており、本命ではないメーカーは「あきらめ見積り」を最初から提示してきたりする。
そもそも競合など必要ではないのだ。
だから、本命以外のメーカーに発注の見込みを伝えると「えっ、ウチですか・・・大丈夫かな?」なんて言われてしまうのだ。
この構図と民が批判している官の公共事業入札と何が違うのだろうか?