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5日目⑧
ある日など、納入のトラブルがあり、冬の寒い日に秋田までモノをサプライヤー
の工場まで取りに行った。それまでの仕事を中断させて飛行機に乗った。凍てつく
空気、手は寒さで動かなかった。やっとサプライヤーの工場についたかと思えば、
工場の担当者からは露骨にいやな顔をされる。「そんな急がせたってできないよ~
ん」。本当にこう言った。「よ~ん」というところが何度も何度も頭の中でリフレイ
ンした。本当にむなしくてしかたがなかった。それでも、お願いしてそのまま生産
現場で待機すること
3時間。やっとモノを無理に仕上げてもらった。そしてそのま
ま岐路につく。最寄り駅から走って、自分の工場の受け入れに届けた
30分後。私の
内線がまた鳴った。「不良品だ。バカヤロー!」。受け入れのオヤジは私に叫んだ。
叫びたいのはこっちの方だった。私は泣きそうだった。私のバイヤー歴の浅いころ
はこのようなトラブルの連続だった。
私は何が悪いか考えてみた。考えて、文献を読み漁り、色々な企業のバイヤーと
話す機会を持った(外国企業のバイヤーとの会話は刺激になった)。簡単なことだが、
あることに気がついた。そのときの衝撃はいまでも覚えている。「いまからは、価格
は売り手が決めるんじゃないよ。買い手が決めるんだよ」。そういう人がいた。最初
は当たり前だと思っていた。買い手が決めているじゃないか、今だって。馬鹿野郎、
と。馬鹿野郎は私だった。
つまりこういうことだった。買い手が価格を決めているつもりでも、それは今ま
では実は売り手が決めていた。だって、売り手が見積もりを提出してきて、それを
ベースに安い高いを議論しているだけだから、結局は売り手の中から逃れることは
できない。見積もりを何社から出してもらったって、結局は売り手価格の集合体で
あることには間違いない。でも、これからは本当に買い手が価格を決めるのだ。そ
れは、買い手が「このコストで買う」と決め、それに従う売り手を創り出し、売り
手から「どんどん下げさせてください。買ってください。お願いします」と頭を下
げてくるということだ。そして、その手法は売り手の「感情操作ゲーム」を逆手に
とってやることだ。
売り手主義だった世界を、買い手主導の世界にパラダイムシフトさせることが必
要なのである。いや、もうこのことは個人ベースではやっている。今、アメリカの
大人たちが「○○という製品を、○○ドルなら買うよ」と言えば、中国の個人が手
を挙げ取引が成立する、なんてことは当たり前になっているのである。そこには「○
○ドルで売っています。買いたい人いませんか?」という旧来の売り手主義的なも
のとは全く逆の姿があるのである。もちろん、趣味でシャツを買うわけではないの
だから、ここまで簡単に買い手主義が実現できるとは思っていない。だが、やって
ほしいのは、少しでも買い手主義のパラダイムにシフトしてほしいということであ
る。これまでの常識に耳を貸さないということである。
5日目のまとめ
◆売り手の技術だけが進化している現在、それに対抗する買いの技術が必要とされ
ている
◆人は感情だけで買い先を決めている
◆買う直前に、色々と自問することで過ちを正せる
◆売れたって儲からん会社はつぶれる
◆売り手の感情操作ゲームを逆手にとれ