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AKB48~製造業の正当な後継者(坂口孝則)
・AKB48のヒット理由はカイゼンにある
2012年6月に実施された第4回AKB総選挙では総投票総数は138万票にいたった。第1回の総選挙が5万票だったのにくらべて、わずかの期間で27倍ほどに拡大している。みんながテレビ中継に釘付けになったこのイベントは、たしかに国民的イベントといえるほどに成長した。また、先日発表された2012年の上半期のオリコンチャートはAKBとその姉妹グループで塗りつくされた。
このモンスターグループのヒット要因はなんだったのか。
これまで、AKBの躍進理由がさまざまな観点から説明されてきた。もちろん、楽曲の良さ、メンバー一人ひとりのキャラ、「会いに行けるアイドル」というコンセプト抜きには語れない。しかし、説明される要因のどれもが、決定的なものではない。もし何か一つの要因だけによるものであれば、他のアイドルグループが真似して、あっというまに人気を博しているはずだ。
2005年に結成され、2006年からライブを本格化したAKB48だったが、ときにメンバーの数のほうが観客よりも多いこともあった。そんなときにも秋元康さんは自ら会場に出向き、ファンの一人ひとりに、よりよくするための改善点を訊いてまわった。また、AKBのスタッフは、ファンが集うファミリーレストランに出かけ、既存のファンを少しでも楽しませることのできる方法論を模索していった。
もちろんクレームも入ってくる。それをおなじく一つひとつ解消していった。
秋元康さんの発明は「カイゼン」「顧客志向」が製造業だけではなく、アイドル生産にも応用したことだった、と私は思う。日本製造業の代表選手である自動車メーカーは、生産システムや商品を一つひとつ顧客に合わせて変化させていった。私が自動車メーカーに勤務していた経験からいえば、お客のどんな小さな苦情もすべて解消するように検討する。使い勝手、乗り心地、デザイン、そして販売員の態度にいたるまで、次世代商品の開発や店舗運営に反映していく。その「カイゼン」「顧客志向」の徹底さは、異常とも思えるほどだ。
かつて日本の製造業が優れていた理由は、何か特定のプロセスにあったのではない。それぞれのプロセスが他国とくらべて1%だけでも2%だけでも優れていた。それが積み重なることで大いなる優位性につながっていったのだ。
・お客の声、得票数、無思想
メンバー一人ひとりの顧客志向も凄い。指原莉乃さんはファンを楽しませるために、一日でブログを100回も更新して3500万ビューを達成した。他のメンバーもGoogle+では過剰なほどに書き込んでいる。ライブにいけば、彼女たちの一生懸命さに、多くのファンが満足して帰宅する。握手会では手が腫れても頑張り続ける。ファンを差し置いて特定男性と恋愛することは禁止だ(ちなみに、日本製造業が採用したケイレツ発注とは、ケイレツ企業に自社グループだけへの愛を誓わせるものだった。恋愛禁止、グループへの忠誠、ファンこそ恋人、というAKBはかつての日本型製造業にそっくりではないか)。
すべてはファンのため。「顧客志向」が貫徹している。
お客の声を優先することは、徹底した無思想に支えられている。自分たちの考えではなく、お客こそが正しいとする無思想。少人数のお客にだけ売れるこだわりではなく、多数に売れることこそが正義なのだ。「ヒットはすべて正しい」のである。その意味で、AKB総選挙は、センターを人気投票だけで選抜する徹底した、そして優れた無思想システムだった。
自動車は歴史をへて、単なる移動手段から嗜好品になった。機能だけを追い求めるだけではだめで、移ろいやすい消費者の心をつかむ必要がある。そして、それは自動車だけではない。他の商品も同じだ。
かつてのソニーやパナソニックやホンダは、創業者がミカン箱の上に立ち、自社を世界的な企業にしてみせると社員の前でスピーチし、苦労と努力を重ねながら夢を実現させていった、ある種の「物語」をもっている。彼ら創業者(井深大氏・盛田昭夫氏、松下幸之助氏、本田宗一郎氏)は、自社商品以上に有名だ。商品が嗜好品になるにつれ、お客が商品を選ぶ際に重視するのは、この「物語」になっていく。
おそらく、AKB48の総選挙を見て泣いた人がいるとすれば、彼女たち一人ひとりの「物語」に共感したからだろう。人びとの関心は、企業を作り世界に羽ばたいた起業家物語から、アイドルの立身出世物語に移ってきた。AKBは楽曲とライブを売りにしているのではない。メンバーの人生を販売しているのである。
ソニー創業者の井深大氏・盛田昭夫氏のスピーチに感銘を受けたのが、アップルのスティーブ・ジョブズで、彼はプレゼンの名手となった。本場日本では、AKB48がスピーチの巧みさを受け継いだ。AKB総選挙を見てもわかるとおり、彼女たち並みにスピーチがうまいひとたちを探すほうが難しい。
私がAKB48を「日本製造業の正当な後継者」と呼ぶのは、こういった類似性がある。
え、そんなにAKBが製造業に似ているんなら、日本的製造業のもう一つの特徴である「年功序列」はどうかって?
調べてみた。第3回AKB総選挙での結果だ。
・メディア選抜(上位12人):平均年齢20.0歳
・選抜メンバー(上位21人):平均年齢19.5歳
・アンダーガールズ(22~40位):平均年齢18.4歳
マジかよ。製造業とおなじく、「年功序列」なのか。次に第4回AKB総選挙での結果だ。
・選抜メンバー(上位16人):平均年齢20.5歳
・アンダーガールズ(17~32位):平均年齢19.9歳
・ネクストガールズ(33~48位):平均年齢18.6歳
・フューチャーガールズ(49~64位):平均年齢18.4歳
マジかよ。これも「年功序列」だ(篠田麻里子様が平均年齢を上げていると疑うひともいるだろうが、麻里子様を覗いても選抜メンバーの平均年齢は20.1歳だ)。
もちろんこの結果は、何年にもわたってファンに尽力してきたメンバーが支持されていると当然の結果を示すにすぎない。しかし、カイゼンを重ねて結果を出すことは、製造業の手法にそっくりではないか。やはりここで私はAKBと製造業の類似性について心奪われる。
え、あれだけAKBは人気なのに、各メンバーの年収が低いという噂があるって?
それについても製造業出身の私にとっては親近感が湧く。あれだけがんばっている製造業の従業員給料はあんなに安いんだから。