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007が中国サプライヤから殺される日
アストンマーチンがきわめて重要な報告書を米国運輸局に提出しました。
http://goo.gl/zK8Z1A
これは、調達・購買に関わるひとであれば、一度お読みになったほうが良い
ですよ。このアストンマーチンは、5000台もの!(トヨタやホンダの
5000台とは意味がまったく違います)リコールを申請しています。その
理由は、なんと中国サプライヤの使用材料にあったとしています。
さらに、問題なのが、選定材料が間違っていたのではないことです。中国サ
プライヤは、偽材料を使っていたのです。アストンマーチンは、正しい材料
(PA6)を図面表記していたのに、中国サプライヤは異なった材料を(おそ
らく意図的に)使用していました。
007が乗るクルマは、そのときどきの政治状況や経済状況に左右されます。
これは自動車業界にいれば誰でも知っているのですが、要はスポンサーです
よね。007といえども、映画に出資いただけるメーカーを優先するわけです
よ。だから、007がどこのメーカーのクルマに乗っているかは、新作映画が
公開されるごとに話題になりました。
そのなかでも、アストンマーチンは、いわば「ボンド・カー」の代名詞的存
在でした。本論の「007が中国サプライヤから殺される日」は言い過ぎかも
しれませんけれども、今回のリコール原因はアクセルペダルでした。アクセ
ルペダルが損壊しているのですから、ヘタすれば人身事故につながります。
まさか、ジェームズ・ボンドも中国サプライヤの製造不備で事故るとは思っ
ていないでしょう。
ただ、それよりも注目いただきたいのが……。
アストンマーチンの苦悩です。というのも、この中国サプライヤは、「デュ
ポンPA6」と偽ラベルを貼ったものを使用していたらしいのです。もちろん、
さらにその下の材料サプライヤが悪かったのか、同社が悪かったのかはわか
りません。しかし、私はここに調達の困難さを見ます。
というのも、アストンマーチンが過去に遡れるとしますよね。果たして、こ
の不良を防げたでしょうか。私は難しいと思います。この点は、工場監査の
プロフェッショナルからは異論が出るでしょう。でも、やはり難しいのでは
ないか。なぜなら、海外サプライヤに監査にいって、工場を眺めるとします。
材料は、図面通りのモノを使っています。「ホラね」--、と差し出された
ら確認しようがあるでしょうか。
もちろん、それまでも疑って、材料解析する方法もあるでしょう。納入品そ
れぞれに。ただし、それは現実的にはムリだと思うのです。やはり、ビジネ
スは最後の最後では、信頼関係に依存しています。だから、相手を完全に疑
うことはできません。よって、この不良は、アストンマーチンのせいだとも
いえるけれど、悪意あるひとたちの前には防ぎようがない「突発的事象」と
もいえるのではないか。
もちろん、定性的観点から、なぜそんなサプライヤを選んでしまったのだ、
というお叱りはあるでしょう。でも、当該サプライヤは、アストンマーチン
からするとティア3サプライヤなのですよ。みなさんは、ティア3サプライ
ヤが悪さしたら責任とれますか? 私は調達・購買担当者だったころを思い
出せば難しいと思います。
ということは、本論の結論は「だから仕方ないさ。こういうことも諦めよう」
というものなのでしょうか。残念ながら、半分はそうです。ただ、残り半分
は、そう諦めるのではなく、なんらかの解決策も提示すべきように思います。
では、その解決策は何なのか……。まだ自分のなかでまとまりません。
少なくとも現時点でいえるのは、ティア構造をはっきりと把握したうえで、
各現場に足を運び「目の前のサプライヤが信頼に足るか」を確認することぐ
らいでしょう。それはもしかすると、精神論にも似たものかもしれません。
サプライヤを信じる、というわけですから。
何かご意見がありましたら、お聞かせください。