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8-(1) 社内の意識を変える「私の経験」
「誰がこんなバカなことを決めたんだよ!」
以前、先輩バイヤーがそのようにボヤいているのを聞いたことがあります。「絶対にあってはいけないこと」が決まった、とその先輩バイヤーは言うのでした。
しかも、それは会社トップの命令でした。曰く、「これは前代未聞だ」と。
内容は、たいしたことではありません。「各バイヤーが持っている今期の品種別発注方針のファイルを、全社員が見られるサーバーに置け」というもの。
私はバイヤーになって僅かのときでしたから、「ふうん、今までは見られなかったんだ」という程度の認識しかありませんでした。
しかし、その先輩バイヤーは憤りを隠せません。
「設計者にこんな情報が漏れるなんて、今後絶対に支障を生むはずだ」と。
私は「そんなたいしたことなのですか?」と訊きましたが、先輩バイヤーは呆れるようにこう言うだけでした。
「トップはなんでこんなバカなことを決めたんだ!!」
バカはトップではなく、その先輩バイヤーだということに気づいたのはその数年後でした。
業務を経験しているうちに気づいたのですが、どうやら調達・購買部門には戦略を社内に隠しておきたいという「常識」があるようなのでした。「サプライヤー決定は、自分たちの業務権限だし(これは間違いではありませんが)、他部門に漏洩すると、サプライヤーに伝わってしまい健全な調達構造が構築できなくなる」というのが、その常識の背景でした。しかし、本当に考え抜かれたものであれば隠す必要はありません。おそらく、その内容を詳細に訊かれたときに答えることができない、というのが本音です。
例えば設計者から「こういうサプライヤーを使いたいんだけど」と相談があったときに、「いや、そこはちょっと・・・戦略上の問題があるので」と答えるバイヤーを多く見てきました。
「その戦略って何?」「なんでそういう結論になったの?」と訊かれ、「理屈なんてありません。戦略だからです」とまで言い切ったバイヤーも知っていますが、このような非論理的な発言がどれだけ調達・購買部門の地位の低下を招いたかは想像するだけでも恐ろしいものです。
考えてみれば、全社で一つの調達・購買戦略が浸透している企業と、調達・購買部門のみが隠し持っている企業を比べたときに、どちらが良いかは自明です。
全部門で一丸となって最適な調達構造を構築できるように仕向けていくべきです。そして、そのためには調達・購買部門の意識を変えてゆくべきです。