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想定の範囲を拡大しようとする試みは失敗する①
経済産業省は先日、東日本大震災で影響を受けた企業の実態調査結果を発表した。製造業では50%以上が復旧しており、7月までには大半の事業所が復旧するという。
この数はおおむね私が聞いている範囲とも合致する。いっぽうで、特殊な材料や薬剤などの入手困難は続いており、まだ予断を許さない。
ここで数字のトリックがある。50%以上が復旧している、と聞いたら「じゃあ問題ないじゃん」と考えがちだ。しかし、製造業においては、たった一つの部品が手に入らないだけで、全体の生産を完結できない。
たとえ小部品であっても、その一パーツがないだけで自動車を生産することができない。それは電機各社も同じことだ。ゆえに、あまりパーセンテージで語ると見誤る。
同時に、この震災をきっかけとして、恒久的な対応を講じるところが多い。具体的にはBCPを作り直したり、あるいはサプライチェーンにおける想定リスクを引き上げたり。
大げさにいえば「日本に核爆弾が落ちて各都市が機能停止になる」こと以外は対応しようというわけだ(ちなみに、ある企業の役員は「日本が崩壊してもモノづくりが継続できるように」と指示をした)。
しかし、この「想定の範囲」を拡大しようとする試みは常に失敗する。なぜか。
理由1:そもそも複雑化するサプライチェーンにおいて、単独企業だけでリスクをヘッジできない。究極的にはティア1、ティア2と呼ばれるサプライヤーにも完璧なるリスクヘッジを求めるべきだが、それは現実的ではない。
理由2:想定の範囲を設定しても、その想定の範囲が「現時点で考えうるもの」である以上、それを超す災害に対応できない(究極的には地球上がすべて死の灰で覆われても他惑星で生産を継続することになる)。
理由3:想定の範囲を少し拡大するとコストアップにつながり、生産時に得られる利益を超える。中小企業の経常利益率平均が1~3%と考えると、想定リスクの拡大に伴うコストを負担することはできないだろう。
ここで、理由3を見ておく。一般的な製造業であれば、標準部品以外を使おうとすれば、評価コストは100万円かかる(一日のコスト1万円の社員が10人で10日の作業を行う、とした)。監査や単品テストを考えると平均値はこの程度だ。
そこで調達品のすべてについて、リスクヘッジのために2社購買を実施しようとすると、この100万円が次々にかかっていく。
もちろん社員は固定費だという考え方もあるだろうが、ここでは割愛する。そうすると、コストだけが上積みされ、1社購買で生産した製品が生み出す利益をはるかに超える。
ゆえに、「想定の範囲」を拡大しようとする試みは常に失敗する。
代案としては、むしろ「想定の範囲」外が起きたときに、事後策としていかに対応するかを考慮することだ。