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新興国へのシフトは正しい戦略か
先日の報道で驚かせられたのは、ホンダのフィットに対する情熱だった。現在、ホンダは代表車種であるこのフィットを多くの国で発売している。また生産拠点は、日本を筆頭として、中国、ブラジル。またイギリスもある。インド、タイ、インドネシアでも作っている。販売と生産の両輪から、このフィットはまさに「要」の車種といって良い。
しかし、ここで問題が顕在化してきたという。それはスペックだ。このように多国間で販売しているものを一つの仕様で生産しようとすれば、もちろん「ムダ」が出てくる。ある国では最適だった仕様も、ある国ではそうではない。そのようにして、地域によるオーバースペックが目立ってきたのだという。
では、ホンダはどうするか。簡単にいえば、各国最適でのスペックの見直しだ。それと、同時に各国最適の調達基準をつくり、各国ベストのサプライヤーと部品を選定するのだという。目標は現行モデルの2~3割コスト低減を目指す。また、それが新興国で闘うための武器になるという。
私はこの取り組みにエールを送りたい。
しかし、同時に私は危惧も感じずにはいられない。それは、新興国の価格競争に自ら巻き込まれようとするリスクのことである。私は再三指摘しているとおり、新興国シフトが100%正しいとは思っていない。むしろ、利益額を減じさせるだけだと思っている。もちろん、一台あたりの利益額が二分の一でも、需要が2倍以上あればいいではないか、という意見はある。しかし、現実には新興国に2倍以上の需要はない。これが現実である。
ここで、「では、付加価値の高い商品を開発できるようにつとめるべきだ」という紋切り型のフレーズもいいたくない。その「付加価値の高い商品」なるものを予想できれば、誰だって金持ちになっているからだ。それがわからないからこそ、自動車メーカーの悩みは深い。代案が提示できない以上、新興国シフトを否定するものではない。
ただ――。新興国シフトのみが救世主ではない。このことを述べておきたい。私が将来ふりかえるときに備えて。