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調達・購買業務の勝利者とは誰か
「あんな人なんて誰も助けませんよ」
バイヤーにとって、自分が尊敬していた先輩バイヤーのことを、そのように言われることほど酷なことはありません。
だいぶ前のことです。私には、あるところで知り合った友人がいました。友人と言っても良いでしょうか。年齢は5歳ほど離れています。共通点は同じ職業(バイヤー)だったことです。とある研修で知り合い、違う会社ながら気の合うところがあったためか、それからよく飲みに行くことがありました。
彼は、明るく、気さくで、それでいて目標達成のためには何でもやるような、そんな気迫にも満ちていました。とあるきっかけで、仕事の様子を見せてもらったこともありましたが、サプライヤーからの要求にも頑として自説を曲げず、ときには強引にも従わせる様子が印象に残っています。
お互い仕事の成果を出し始めていた頃だったからでしょうか。夜の11時に待ち合わせては、飲みながら遅くまで意気揚々と自分たちの夢を語り合い、仕事の情報を交換していました。楽しかった時間。まるでこの季節がずっと続くものだと信じていました。
しばらく経った日のことです。彼の会社が品質上でとてつもない不祥事を起こしました。もちろん、当然その会社の売上げは下がっていき、それにしたがって調達・購買部門も苦境に立たされたのです。売上げが下がるということは、生産量も減るということ。生産量が減るとは、調達量も減るということです。少しの減少ならばまだしも、大幅減だったため、みるみるうちにサプライヤーの態度が変わっていきました。
彼の会社に依存しているサプライヤーは運命共同体なので、まだバイヤーにとってみれば救いです。しかし、彼の会社に依存していないサプライヤーは、当然かける力を他社に動かし始めました。「こんなに儲からないところと、仕事やってられるか」というわけです。
毎期のコスト低減交渉も厳しくなる。新製品に使用する部品の競合を実施しようとしても、「その製品って、本当に市場に出るんですかねえ」と皮肉を言われる始末。少なからぬ社員は辞め、残った社員のモチベーションは下がっていました。
そのときだったと思います。たまたま私がつきあっていたサプライヤーで、彼の会社とも取引のあるところがありました。私は、そのサプライヤーの営業マンとの商談中に、さりげなく彼の会社の様子を尋ね、彼の名前を出して「こういう知り合いがいるのだけれど、大変そうだ」と話しました。すると、営業マンは、すぐさま「ああ、○○さんですか。知っていますけどねえ。ダメでしょ。あんなことずっとやってたんだから。あんな人なんて誰も助けませんよ」と。
私は、複雑な心境でした。私が彼の立場だったら、同じことを言われないとは限りません。良かったのか悪かったのか、不条理にも似た感情を抱いて、いたたまれなくなっていました。
彼は、確かに会社に貢献していたのは間違いありません。安く買っていたし、サプライヤーを強引とは言え、引導することだってできていました。人の良すぎるバイヤーは、社内外から使い捨てられる。ならば、強引にでも従わせた方が良い。しかし、それは結局のところ、長期的に彼の功績になったのかどうか。サプライヤーは彼ではなく、彼の会社の看板を見て、しぶしぶ従っていたのでしょう。そして、彼が困ったときには、助けてやるものかという復讐心を育てていたのでしょう。そう考えると、彼の調達・購買業務の勝利者とは一体誰なのか。私にもこの事例の答えは持ち合わせないままです。