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5-(1) 製品知識こそ力「私の経験」
「お前じゃダメだ!電話を替われ!」
設計者からの電話を受け取ったときに、開口一番こう言われたことがあります。
当時、私は入社一年目の社員。電気部品を担当していました。
私の取り柄は応用の早さです。そのときも、ビジネスのルールを覚えるのは早く、自分ひとりで交渉を任されるようになっていました。
しかし、この言葉はショックでした。
確かに、サプライヤーは話を聞いてくれます。多少間違っていても、こちらが購入する側ですから、頷いてくれることが多かったのです。
社内で話をしているときも、ある程度常識的な人であれば、こちらの話を聞いてくれ、提案も受け止めてくれます。
ですが、この電話を受けたときは、それまでのバイヤーとしての自信が打ち砕かれる気持ちでした。ビジネス手法が分かっていても、高尚な知識を持っていたとしても、戦略を見事に立てることができても、現場では「ものを知る」ことなしに信用されることはないのだ、という気持ちを強く持ちました。
また、英語を学んだら外国のサプライヤーとも上手にコミュニケーションができる、とも思っている人がいます。しかし、実際の交渉の場では、英語が全くできなくても、製品知識を持つ設計者の方が図を使い単語を並べるだけでより高度な交渉を実施している場面に何度も立ち会うことになります。
加えて、「かつては設計者がよくバイヤーに『このようなプレス加工は可能か』などと問い合わせにくることが多かった。今ではバイヤーに聞きに来ることは減った」とよく聞きました。近年発達してきた情報伝達ツールを使わずとも、昔は今以上のコミュニケーションが可能だったのではないか、とすら思います。
難しい単語を並べてみても、製品知識の欠如したバイヤーを頼りにする人などいないからです。そんなことよりも製品に詳しい方がずっといいはずです。
それに、製品に詳しいバイヤーに対しては営業マンもヘタなことを言うこともできなくなります。少なからぬ企業が調達・購買部門に元設計者を投入するのは、このように「製品に詳しいだけでも十分だ」という考えがあるためです。