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5-(8) 契約・商習慣「契約の注意点とバイヤーの落とし穴」
とはいえ、何もかも全てを契約で縛ることなど不可能です。そういうフォーマットがあるのであれば、バイヤーたちの中で使われているでしょう。人によっては「不良発生時の賠償金も細かく取引前に設定しておけ」という人もいます。が、賠償金まで完全に事前契約しておくことなど不可能です。
考えてもみれば、これから結婚しようとしている二人が離婚時の財産配分まで厳格に決めることなどできるでしょうか。できるはずもありません。「お前の製品は不良品である可能性が高い」などと言うことができないのは、国内のサプライヤーであろうが、外国のサプライヤーであろうが同じことです。それは、相手の出方や態度や実績をもって柔軟に決めてゆかねばなりません。
せいぜい賠償金に関しては上限額を決めることくらいでしょう。契約では、押さえるべきところを押さえ、100%を目指すのではなく80%満足できたら上々です。それ以降は両社の文化を共有しあうことに時間を使いましょう。
なにやら外国サプライヤーから身を守ることだけに用心すればよいと思われたかもしれません。しかし、同様にバイヤー側も契約の遵守をすることは当然です。バイヤーがやりがちなミスは
(1) 見積り条件を無視して注文してしまう・・・見積りでは「最小ロット1,000個」と書いてあるのに、800個などそれを割り込んだ数量で注文してしまう。これは日本人バイヤーはやりがちです。国内サプライヤーであれば「1,000個というのは希望数量」という解釈も成り立ちますが、外国サプライヤーのそれは「1,000個という条件の下にこの価格だ」という意思表示なわけです。それを守らないと、「文字が読めない」と思われます。実際、私は「英語が理解できないのですか?」と真顔で言われた経験を持ちます。
(2) 指値を達成したのに発注しない・・・外国サプライヤーに対して指値として目標値を言い、その金額以下の提示を受けたときは注文せねばなりません。国内サプライヤーには「まぁ今回は様子見ということで」という愚にもつかない言い訳が通用しますが、外国サプライヤーにはその通りではありません。口頭であっても、指値としてある金額を言ってしまう(=その金額であれば取引成立)ならば、愚直に履行されねばなりません。当たり前ですよね。
相手は「○は○」、「×は×」という態度で臨んできます。特に契約に関してはシビアなので、契約に書いていることを守る反面、契約に書いていることが履行されない場合は猛烈に抗議してきます。曖昧な領域であっても、自分たちの正当性を主張するでしょう。
元々、欧米人(加えてアジアのビジネスエリートたち)は自分のことを立派に見せる教育や理論的に語る訓練を受けてきています。だからといって必要以上に億劫になる必要などありません。契約を冷静に解釈し、淡々とこちらの主張をより理論的に語るだけです。
契約が重要だと言っても、それを運用してゆくのは人間です、当然。契約以上の柔軟な対応をしてもらうこともできます。契約を履行させないことだって。契約とは設計部門ができない業務の一つです。そこでいかにバイヤーの存在感を示すことができるか。これこそまさにバイヤーの力量でしょう。