8-(3) 世界からモノを調達する「日本の慣習を超えて」

8-(3) 世界からモノを調達する「日本の慣習を超えて」

これまで外国サプライヤーとバイヤー間に生じたトラブルを数々耳にしてきました。ただ、そのほとんどがバイヤーの外国サプライヤーに対する理解不足としかいえないことばかりです。日本企業間であれば、曖昧にしたままでなんとなくやり過ごすことができることであっても、外国サプライヤーとのやり取りであればそうはいきません。外国サプライヤーと付き合うということは日本国内だけの常識を捨てて世界の常識を身に付けるということです。冷たい言い方ですが、日本サプライヤーだけを相手にしているバイヤーはその自覚がないようです。

私も、外国サプライヤーで痛い目に遭ったことがあります。競合で安価な見積りを出してきたサプライヤーがいました。安価なのはいいのですが、内容が全く不明であり、しかも日本支社の営業マンでは全く説明できなかったので、本国から技術者を呼ぶことを要請しました。すると、説明後に「日本滞在費」および「業務費用」を請求されました。

日本のサプライヤーであれば、受注前活動として割り切られるところを、受注前に、しかも通常レートより高い費用を申請されました。仕事になるか分からんので金をくれ、というわけですね。

私は、彼らが泊まったホテルに直接電話しました。粘って詳細を訊くと、彼らが「日本滞在費」として申請してきた内容には夜のワイン代が含まれていました。よって、この費用は払わず、その日本支社になんとかしてもらいました。なるほど、立派な「業務」だ、と感心した記憶があります。

またあるときは、外国サプライヤーに関して設計者から苦情を受け取ったことがあります。私が推薦して採用することになった外国サプライヤー製品に関して技術的な質問をしようとしたところ「一問あたり、一万円なので○○銀行のこの口座に振り込んでくれ」といわれたと言うのですね。あまりにひどいと思ったので電話すると、「そうですか。じゃぁ、20問までサービスのセットを提案した方がよかったですね」と。

しかし、それでもなおグローバル調達の必要性がなくなることはありません。このようなサプライヤーであるならば、その特性を広く知り、その上で調達を決定しなかった私の責任ということもできます。

よく、わずか数社との関係だけで「海外サプライヤーってとんでもないよな」とか「やっぱり付き合うなら日本のサプライヤーしかないな」と断言してしまう人がいます。ご愁傷様です。そういう人は、自分の調達スタイルが日本のサプライヤーとの慣習・常識だけにとらわれていることを認めているに過ぎません。立派なサプライヤーもいれば、どうしようもないサプライヤーもいる。これは考えてみれば当たり前で、日本国内だけではなく海外でも同様です。

たしかにたやすくはありません。しかし、彼らの常識や思考スタイルに一旦身を置き、経験と失敗の中から学んでゆけば海外サプライヤーとうまく付き合うことは可能です。私の例で言っても、起こりうる事象を知っていれば避けることができたことばかりです。実際に、何度か経験を積んでいったあとに個人的にやりとりをするサプライヤーも出てきました。

一方で、そこからしか調達することができない、と必要に迫られるときがあります。また、自社の海外生産拡大に伴って、現地サプライヤー発掘を要望されるときがあります。また、どうしてもコスト高で下方硬直している領域には海外のサプライヤーを参入させることによる競合の活性化も必要でしょう。そういうときに求められるのは、自国や自分のやり方を絶対的に押し付けるのではなく、他国の懐に入り込み常識を学んだ後で最適解を模索してゆく意識を持つことです。

グローバル調達、というとき、ついつい皆は「インターネットによるマッチング」とか「海外展示会における商談の進め方」とかのテクニカルな方向に議論を進めがちです。しかし、私はそのような情報よりも、世界から調達をしてゆかねばならないという前提の中、海外サプライヤーに対する意識の向上の方が100倍必要だ、と確信しています。

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