- ホーム>
- 最強の調達・購買スキルアップ講座>
- 8-(8) 次世代の調達・購買へ「これからのバイヤー」
8-(8) 次世代の調達・購買へ「これからのバイヤー」
私たちは様々な価値が混在する世界に生きています。「汗水たらして頑張る生き方」が美化される一方で、中国では汗水たらして1時間働いても100円にしかならない職場はたくさんあります。と思えば、「買いたくなければ、買ってくれなくてもよい」と原価100円のチップを5万円で売りつけフェラーリに乗っているハイテク企業もいます。その事実を前に、日本で「汗水たらして働くこと」を美化する人たちは、自身の子供が中国で働いて低賃に甘んじることを許容できるでしょうか。
私たちは、ときに時給100円の労働者を使うサプライヤーから製品を調達し、ときに5万円のチップを売ってもらうために頭を下げて調達「させていただく」ことになります。ここで善悪の問題は論じませんし、私にその力量もありません。事実がただそこにあるだけです。
話をあえて逸らします。ちょっと書いたように、私は様々な人からメールマガジンの感想を頂くことがあります。上場企業の役員、結婚退職してしまった元バイヤー、中国の調達コンサルタント・・・これらの人々が共通して書いてくれることに気づきました。それは「あなたの物語に共感した」ということです。
知識でもスキルでも高尚な理屈でもなく、「物語」。これは私を唸らせるのに十分でした。物語――、私が本書で色々書いてきた節々に自分の経験を挿入したのは、私の物語をご自信の物語に照らし合わせて読んでいただきたかったためです。これから人を動かすのは知識ではなく、物語ではないか。共感ではないか。という確信がありました。
私が感じる限り、現代では「これが正しい」とか「これは間違っている」とかいう議論はもはや人を動かす原動力になっていないようです。「これは善いことだ」とか「これは悪しきことだ」という議論も同様に人を動かしえません。人を動かしているのは、「これを信じてみたい」という賭けにも似た感情の昂りです。
私は遠まわしに思われても、自分の経験、等身大から語ることを止めません。それは逆説的に、物語を読者に注入することで、人を動かす近道になると信じるからです。
ここで話を戻しましょう。時給100円の作業員と原価の500倍でチップを売りつけるサプライヤーの話です。前者ができずに、後者ができることは何か。それは、その人の「特有性を売ること」にほかなりません。前者は世界中の誰でもやれることをやっているだけ。しかし、後者の仕事は取替えが利かないために商品を高く売れるわけです。
そうだとするならば、バイヤーは何をすべきでしょうか?
本書での議論をまとめて言うのであれば、「これからのバイヤーは、安く買ってくることが仕事ではない。価値を見つけてくるのが仕事だ」ということになります。安く買ってくることは、もうちょっとで機械が可能にしてくれるかもしれません。完全に代替することはできないかもしれません。しかし、効率化はできます。これまで10人必要だったところを5人でよくなるでしょう。さらに、机を叩いて安くしているだけのバイヤーであれば、机を叩いてくれる、それこそ外国人労働者をその給料で5人雇った方がマシです。