2月に非常に興味深いレポートが経済産業省より発表された。Twitterでも多くRT(リツィート)されていたので目にされた方も多いのではないだろうか。と思って、自分の周囲のバイヤーにも聞いてみると、意外にも知らないバイヤーが多かった。従い、今回以降数回にわたって、この資料を元にした記事を書いてゆくことにする。「日本経済を巡る現状と課題」50枚のシートは次の6つの項目で構成されている。1. 日本経済の行き詰まり2. 産業構造全体の課題3. 企業のビジネスモデルの課題4. 企業を取り巻くビジネスインフラの課題(産業の立地競争力)5. 諸外国の産業政策の積極化6. 日本の産業構造の方向性1~5に記載されている内容は、1月に開催された「2010年を読み解くバイヤーの集い」でも同じような内容がパネラーの皆さんより提示されていた。私は、このレポートを読んで2010年を読み解く~で語られていたことをより一層深く印象付け、今思い起こし、考えを深めるに至っている。そして、日本の多くの企業と、そこに所属するバイヤーが、企業そして個人レベルで1~5に記載されていることへ現時点での答えを見出すことが、4月以降の新年度にも、そして自らのバイヤーとしての将来にも役立つと考える。そして、内容を踏まえたバイヤーとしての課題と、現時点での想定される対応策について、述べてゆきたい。● バイヤーとしての課題 1~何を買えばよいのかレポートの9ページ~10ページに海外進出に関する記述がある。その内容は、・ 国内企業の海外投資の推移:増加・ 国内設備投資額の推移:減少・ 企業内各機能の最適地に関するアンケート回答結果:約半数が、生産機能の海外移転を検討私は製造業でバイヤー(自称産業購買系バイヤー)している。かつて、大企業に勤務していた頃は、自分の担当製品を持ち、担当製品に特化した購買業務を日々おこなっていた。レポートには、日本を牽引する産業も紹介されているが、そんな企業に勤務するバイヤーであれば、かつての私と同じような業務分担が一般的ではないだろうか。そして、このレポートに書かれている今の姿、企業の適材適所への考え方から、このような大きな企業に一般的なバイヤーにこそ、これから大きな困難な道が待ち受けているといえる。この資料では、国内設備投資と、海外直接投資が対比して提示されている。当然のごとくに、海外投資は大きな伸びをしているのに対比して、国内設備投資は大きく落ち込んでいるグラフが示されている。その次のページには、将来的に企業としての機能を海外へ移転するかいなかのアンケート結果が掲載されている。移転を検討する企業と、移転を検討していない企業がほぼ同数という結果になっているが、移転する機能の内容に注目している。提示された機能は4つ。開発、研究、本社と生産機能となっている。さて、我々バイヤーはいったいどの機能になるのか。この4つの区分けであれば、生産機能だろう。アンケートに答えた企業の半分は、生産機能の海外移転を検討しているのである。個人的に言わせてもらえば、移転の検討を行っていない企業が半分有ることにも驚きなのであるが、全体の半分が海外移転を検討している事実に注目したい。では、海外移転となった場合、我々バイヤーはどうするのか、どうなるのであろうか。 今、自分が働いている調達・購買機能が海外へ移転する。何を求めて海外へ移転するのか。世界の工場としての日本の地位低下にともなって、たとえば新興国の中国へ調達 ・購買機能を含めた生産機能を移転する。実際コールセンターであったり、欧米の大手企業は、研究開発機能のアジア太平洋地域の拠点だったりを中国に設けている例もある。日本で働いているバイヤーはどうなるだろうか。生産機能の移転にともなって一緒に中国へ移動するか。この場合、労働の対価はどうなるだろうか。移転先のバイヤーの指導的な立場であれば、幾ばくか現地のバイヤーと違った対価を得られる可能性はある。しかし、今働いている同僚を含めたバイヤーが皆、移転先での雇用が保証されるだろうか。あえて言わずともご理解いただける通り、海外移転がおこなわれた場合、多くのケースでは、今日本でおこなわれている仕事は、移転先で雇用された人間がおこなうことになる。海外へ移転するとは、単純に申し上げれば今のコストが市場価格に整合しないためだ。大きなコスト発生源である人を、そのまま海外へ様々な費用負担をおこなって尚、移転させるだろうか。調達・購買という機能を、★ ソーシング(サプライヤーを選定するプロセスの総称)★ パーチェシング(実際の購入プロセスの総称)に単純化して分けて考える。いずれもバイヤーがおこなう業務とすると、ソーシングは、実際買わない。単純にいえば、実際の購入活動をおこなうことなく、購入先の選定のみをおこなうことになる。私は、このテーマの冒頭に「何を買うのか」という問題意識を掲げた。しかし、これから生き残ってゆくバイヤーとは、買わないバイヤーである。買うまでのプロセスに重点を置いて活動できるバイヤーを将来的に志向すべきなのだ。具体的には、◆ 様々な情報収集をおこなって◆ 得られた情報を分析して◆ 戦略展開し、戦略に基づいてサプライヤー選定をおこなうといった能力をもったバイヤーということになる。今、バイヤーとして実務に携わっている皆様の中で、ソーシングを日々おこなっていると言い切れるバイヤーであれば、これから更に大きな変化を来すであろう日本経済の中にあっても、生き残れる可能性が高い。問題は、パーチェシングに軸足を置いた多くのバイヤーである。パーチェシングは、人件費の安価な地域のバイヤーに取って代わられる脅威もあるが、同時に調達・購買活動を支援する情報システムの高度化によっても、自らの仕事を奪われる可能性が高い 。いずれにしても、これから「買わない」ことが、バイヤーの生き残りのキーワードになるのである。 ぜひ、ついでにこちらも見てください!クリックして下さい。(→)無料で役立つ調達・購買教材を提供していますのでご覧ください