ここ数日、尖閣諸島沖で起こった事件に関連して大きな動きがありました。当事者である海上保安庁が撮影したビデオが流出し、Youtubeで視聴可能となっているのです。マスコミの論調は、政府の危機管理能力、情報管理能力を問うものが大勢を占めています。この文章を書いている瞬間も視聴可能です。 この事件から、バイヤーとして学ぶべき点を考えてみます。

ビデオ流出事件が、政治的に、もしくは外交的にどのような影響を与えるのかではありません。ちょっと無理矢理ですけど、こんな場面を設定してみます。

あるバイヤーが、1社独占状態にあった製品の競合となるサプライヤーを見つけました。独占状態にあったサプライヤーをA社、新規サプライヤーをB社としましょう。B社とは、設計者とも打ち合わせを重ね、B社の製品でも機能的に問題がないとの見通しがつきました。問題はコストです。取引があるA社に比して、B社は1.5倍ほど高い。その高い部分について、バイヤー企業内ではこんな分析が行なわれていました。

A社は海外のメーカーです。一方、B社は日本のメーカー。A社は、最近の円高によって、円貨ベースでの価格競争力が高まっています。A社はそんな状況を最大限活用して、価格面でのメリットを強調しています。海外に設計と生産の拠点があるので、日本の顧客への個別対応には少し問題があります。固有の要求には応えてくれません。

一方、B社。発生コストはすべて円貨なので、今回の円高で自ずと価格的には劣勢に立たされています。しかし、日本に拠点を構えているため綿密な打ち合わせによる意思疎通が可能です。顧客の個別対応への要求にはA社よりも高い対応能力を示しています。B社の要求への対応姿勢を見て、エンジニアを中心に「ある程度、B社が高くてもやむを得ないのではないか」との認識を持つに至っています。

さて、バイヤーとして、サプライヤーにどのように対応すべきでしょうか。

このような状況の下、様々な条件を踏まえてバイヤーは自社に最適なサプライヤーを選定しなければなりません。私は、バイヤーには「なぜ、そのサプライヤーを選定したのか」について、社内への説明責任があると考えています。ときには、経済的合理性に依らないサプライヤー選定を行なわなければならない状況も、サラリーマンであればあるでしょう。しかし、それはそれで、やんごとなき事情を説明すべきだと考えているのです。

もう一つ、バイヤーが行なわなければならないもの。それは言うまでもなく、今回のテーマである情報管理です。

今回設定したケースでは、自社へ提供して貰う付加価値から、B社から提示された見積上の価格は高くてもやむを得ない、との認識が自社内に存在します。バイヤーとして、やっぱり金額にフォーカスしてA社を選定するか、それともトータルで提供される付加価値を勘案して、B社にするか。それはどちらでも良いんです。しかし、その選定のプロセスで、B社に下されている評価をサプライヤーへ伝えるべきではありません。最終的に、A、B社の両方に対して、どのような点で採用に至ったのかを説明する必要はあります。しかし、今まさに選定している段階では、情報開示を極力控えねばなりません。

今、A社とB社は計りに掛けられている。それは、バイヤーにとって、もっとも積極的且つ、戦略的に自社にもたらされる価値を最大限へと導くことができるわけです。バイヤーの行なう「買う」とは、個人のおこなうそれよりも、意思決定できる範囲が少ない。だからこそ、意思決定できる場面では、主体性を持つのはもちろんのこと、その発揮を、同じ「買う」ことについて一部分の意思決定を行なった人からは認めてもらうことが必要なのです。ここで、バイヤーの主体性を認めて貰っている他人の行動とは「沈黙」に他なりません。おとなしく見守ってもらう事が必要なのです。

こんなケースを想定してみます。日本国内に拠点を持つB社であれば、多少高くてもよいとの認識。では、具体的な金額はどの程度なのでしょう。バイヤーであれば、極力価格差を小さくするようなアクションをとりますね。日本で事業を営む上で、円貨評価から逃れることはできません。今回は円高だから……との理由で、少し高い金額を受入れることは、為替リスクを自社で持つことになります。そのようなリスクを抱え込むサプライヤー選定は避けるべきですね。そしてバイヤーはこう考えます。

「B社に価格の見直しを打診してみるか……」

しかし「多少高くてもB社で良い」との意向が社内にあることをB社が知ってしまった場合、価格の見直しが行なわれる可能性は少なくなります。冒頭の条件設定をお読みいただくとご理解いただけますが、B社は設計部門とのコミュニケーションが密です。そして、既存メーカーであるA社は、なかなか言うことを聞いてくれない過去の実績があります。設計担当者がB社へ「多少高くてもB社で良い」と告げることを、もっとも避けなければならないのです。

これを避ける手段。ちょっと言葉としての使い道は違いますが「人の口に戸は立てられぬ」なんて言葉もあります。しかし、私は、戸は立てるべきだと考えています。具体的には、双方のサプライヤーとのコミュニケーションを、社内の関連部門に対しても制限してしまうのです。それを、正式に社内外に宣言する。理由は、サプライヤー選定の重要な局面である、それだけです。

当然、そんな長い期間、戸は立てられないですね。でも、双方を分析して比較検討するネタが揃えば、選定に重要な局面とは然程長い期間ではないはずです。もし、期間中にサプライヤーとのコミュニケーションが必要な場合は、必ずバイヤーを通して行なって欲しい事を言い添えれば、社内外からの反発も防げるでしょう。

このような対応をしても、情報は漏れます。まさに「人の口に戸は立てられぬ」なのです。しかし、情報管理を行なうと宣言することで、意向を汲んでくれる人はいます。私の経験では、情報を漏らす人をある程度特定できました。それはそれで別の手を打つしかない。情報を漏らす人は、情報の持つ力を知っているともいえます。その情報を、自分とか、自部門でなく、自社の為に有効活用して欲しい、そのためにはバイヤーに任せて欲しいと、繰り返し訴えることが必要なのです。

バイヤー企業側が行なうサプライヤーの評価結果とは、もっとも繊細に扱うべき情報です。当然、社内的には可能な限り公開して共有すべきです。しかし、対サプライヤーには、必要な情報のみタイミングを計って提示することは、サプライヤーマネジメント、そして自社の利益の最大化の観点でも非常に重要です。私は、サプライヤーを評価する際に、部門毎に発言に統一性を保っているサプライヤーは「手強い」と判断します。それだけ、情報の共有が行なわれていることは、部門間で一丸となっている証左になるからです。

さて、このような考え方に基づいて、今回のビデオ流失事件を見てみます。私は、この事件の影響が、日本にとって良かったか、悪かったは、すぐには結論が出ないと考えています。後に振り返って考えるとき、この時点での公開は絶妙であったかもしれません。ただ一つ、あるコントロールの下で公開されたと信じたい。コントロールが及ばないところで、個人の意思により、善きにつけ悪しきにつけ、一国の外交へ影響を与えるようなことが起こってはならないと考えるのです。

ぜひ、ついでにこちらも見てください!クリックして下さい。(→)無料で役立つ調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

mautic is open source marketing automation