シンゴジラとぼくらの調達リスクマネジメント

シンゴジラとぼくらの調達リスクマネジメント

映画「シン・ゴジラ」は近年の日本映画における最高傑作でした。かつ、S
F映画の水準を上げた映画です。監督は「エヴァンゲリオン」の庵野先生で
す。この映画は見てもらうしかありません。ゴジラが東京に現れ、暴れ、そ
して……。映画のなかではずっと政治家と官僚たちが主役です。

ゴジラの登場によって行政はマヒします。しかし、ゴジラ対策にあたって、
政治家と官僚は幾重もの手続きと、省庁間調整に翻弄されます。緊急時であ
っても、閣僚会議を開き、各省庁から意見を聞いたり、有識者から意見を聞
いたりします。そのまどろこっしさ。成熟した民主主義では、トップの独断
では決められません。だから、何をやるにも遅い。

しかも、未曾有の出来事に、官僚も政治家も為す術もありません。いたった
答えは単純です。「ゴジラが過ぎ去ったら、全力で復旧をしよう」です。し
かしそれにしても、ゴジラを前に、誰もが恐れを抱き、すべてが後手後手に
なります。放射能を撒き散らし、炎を吐き、東京を崩壊させたゴジラ。その
顔には、なぜか産まれてしまった自己への哀しみすら浮かんでいます。この
映画は、いったいどういう結末を迎えるのか。それは、ぜひ映画館でご覧く
ださい。

しかし、私はここに調達リスクマネジメントとの相似形を見ました。

ゴジラが、東日本大震災における原発の比喩であるのは間違いありません。
福島県ではなく、東京の中心部に原発があり、そしてそれがメルトダウンに
いたったらどうなるのか。それを突きつけた映画です。行政と立法は完全に
マヒし、そして、そのときはじめて日本の中心たる「東京」は、これまで先
延ばしにしていた課題について真剣に考えることになります。

神戸淡路大震災のとき、一次サプライヤが被災しました。東日本大震災では、
二次サプライヤが被災しました。サプライチェーン構造の改革を後回しにし、
ズルズルと既存構造のまま調達を続けていたところ、東日本大震災が起きた
のです。一次サプライヤは違っていても、結局、二次・三次サプライヤは同
一企業だったため、被害は予想以上に広がりました。

そのような調達構造は、しかたがない側面はあります。しかし、最後の最後
にズルズルと残された課題があります。それは、「リスクマネジメントを!」
「BCPを!」「マルチソース化を!」と叫んでいる企業の本社が、東京に
しかないことです。サプライヤにBCPを語るのはたやすいのですが、それ
を語っている自分自身は東京に集中しており、東京が崩壊してしまったら、
なすすべもありません。サプライヤにはマルチソースといいながら、自社の
アッセンブリー工場は一つしか持っていない企業はたくさんあります。

映画「シン・ゴジラ」は予期できなかった災害への対応が難しいことを、何
重にも繰り返します。頭ではわかっています。大災害が起きることを。ただ、
日々の業務に忙しく、対策案や事後策を真剣に考えることはほとんどありま
せん。そして、忘却のタイミングで、きっと次なる震災がやってくるのです。
間違いなく、関東地方に大震災はやってきます(それが今年か10年後かわ
からないとはいえ)。

予想できないものに備える、という行為は、そもそも論理矛盾をきたしてい
ます。予想できないから対策を打てないのです。すなわち理屈上では、リス
クマネジメントは虚しい行為なのです。予想できるレベルのものは、すでに
対策している。予想できないレベルのものは、対策のしようがない。

では、「シン・ゴジラ」のヒントとは。日本を救ったのは、「めんどうくさ
い」奴でした。周囲が聞きたくないことも、あえて言い続ける。鬱陶しいと
思われても、平時から危機を指摘し続ける。私は、もしかすると、ビジネス
パーソンも、「めんどうくさい」奴になるべきではないかと思っています。
しかし、このめんどうくささは、それだけ業務に真剣に取り組んでいる証左
でもあります。

「めんどうくさい奴になろう」--。

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