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ゲスの極み調達の明日
私が調達担当者の駆け出しのころ。上司から、「サプライヤとの共存共栄を
目指せ」といわれたことを思い出します。そして実際に各社とも、厳しい市
場環境を生き抜くために、サプライヤとは敵対する関係ではなく、パートナ
ーであると考え始めました。私は、蜜月関係を築き、サプライヤを籠絡しつ
つ強いサプライチェーンを創ることを「戦略的癒着」と呼びました。
「あの『戦略的癒着』っていいね」といまでもクライアントからほめてもら
えるほどです。しかし、さきほどのフレーズ「サプライヤとの共存共栄を目
指せ」が、もし、「ティア2、ティア3、ティア4サプライヤとも共存共栄
を目指せ」だったらどうでしょうか。ティアとはわかりやすくいえば下請け、
孫請け、ひ孫請けを指します。調達企業は、すべてのサプライヤの責任を持
たねばならない、としたら、それはやっかいです。
と同時に、日本は地場の小さな企業が支えているのも事実です。もし調達・
購買部門のいう「共存共栄」が「ティア1サプライヤのみとの共存共栄」だ
としたら、かなり矮小な意味になってしまいます。ティア2以降はどうなっ
てもいい、とすれば、ゲスの極みとはいわないまでも、理念としてはけっこ
う「しょぼい」ことになります。
いや、実は調べていて衝撃的なデータがあります。私もかつて従業していた
自動車業界は、このサプライヤとの共存共栄を理念としています。しかも、
自動車は比較的、堅調な業界だと信じられています。実際はどうでしょうか?
まず、いまから30年前、1985年と、2013年を比べてみましょう。
まず、自動車関連メーカーのなかで、従業員1000人以上を有す企業は、
かつて(1985年)に54社ありました。それがいま(2013年)では
66社あります。中堅はどうでしょう。従業員100人以上、300人未満
の企業は、かつて(1985年)に568社ありました。それがいま(20
13年)では737社あります。
しかし、中小零細企業はというと……。これが興味深い結果です。
従業員30人未満の零細企業を見てみましょう。これが、いわゆる地場にも
っとも多い形態です。かつて(1985年)に8204社ありました。それ
がいま(2013年)ではなんと、4729社に激減しています。これが、
よくも悪くも、自動車産業が雇用とサプライヤを守ろうとしたにもかかわら
ず起きた、不都合な真実です。
誤解しないでほしいのですが、私は自動車各社のケアが不足していたとは思
いません。むしろ逆です。ティア1のみならず、それ以降のサプライヤ群に
も徹底したサポートを行ってきました。すくなくとも私が知る限り、自動車
各社の調達従業者はみな真面目すぎるほどです。しかし、結果は、中小零細
企業の劇的(激的)な減少でした。
背景は何があるのでしょうか。いたって凡庸な背景です。トップ3は「値下
げ圧力に負けた」「海外勢に負けた」「事業継承が難しかった」。驚くのは、
そのほとんどが、突発的なものではなく、ほぼ予想できたことです。それを
中小零細企業にいうのは酷だとしても、です。
経済産業省は中小零細企業にも海外進出を勧めていますが、小規模資本で海
外進出できる企業はほとんどありません。調査しようとしても、英語を話せ
る役員などいないのです。これが実態です。
さて……。どうするか。調達企業(すなわちこれを読んでいるみなさんのこ
とです)が、ティア3、ティア4まで、これ以上のサポートをすべきか。そ
こまで私は強い意見を持っていません。しかし、少なくともこの事実を認識
する必要があるでしょう。地場が支える、どころか、地場の企業は次々と消
えている事実を。さらに、これから、国内は発注数量の減少が見込まれます。
そのとき、私たちは、サプライヤ評価による冷徹な判断が必要になるでしょ
う。
そして、代替できない技術をもった企業は、介入してでも経営を立ち直らせ
る必要があるでしょう。
いま大きな変化が起きようとしています。事件は、ドラマで起きているので
はありません。まさに、みなさんのまわりで起きているのです。