吉田沙保里選手とサプライチェーン

吉田沙保里選手とサプライチェーン

ほとんどのひとが知ってるとおり、吉田沙保里選手はオリンピックのレスリ
ング女子53キロ級決勝で惜敗し銀メダルでした。表彰台で悔し泣きしてい
る姿が印象的でした。「それでも世界の2位じゃないか」といったような慰
めは、本人にとって、慰めにすらなりません。

だから、私たちはただただ拍手をすることくらいしかありません。

しかし、それにしても銀メダルで落涙するとは、おそるべきレベルの高さで
す。以前、私はスポーツメンタルコーチの著名人の講演を聞いたことがあり
ます。氏は、「日本の上場会社を3000社としてください。上位20名が役
員クラスだとすると、6万人もいるんです。つまり、サラリーマンの世界で
は6万位に入ればいい。しかし、世界一を目指そうとする柔道家は銅メダル
でも『日本に帰ることができない』と落涙する。厳しさがまったく異なる。
サラリーマンなんて甘っちょろいもんなんです」と話していました。

この話には、やや間違いがあり、上場企業の役員数は約4万人です。とはい
え、趣旨は変化しません。日本の労働人口をざくっと6000万人とすると、
そのうち4万人が、いわゆる「会社のトップ層」です。

そうすると、意外にも、トップになれそうな気もしますね。しかし、レスリ
ングでは、何十万人のうち2位でも「自分のことを許せなくて落涙する女性
がいる」のです。

私は自分がいる世界が甘すぎる。いや、自分が自分に甘すぎると感じました。

むかしアメリカ人女性から教えてもらった話があります。「私は朝起きたと
きに、『アーユーハッピー?』と自問します。答えがNOであれば、髪型か
恋人か仕事を変えます」と。

それをもじっていうならば、私も今日から自問を続けたいと思います。たと
えば、「自分は必死に頑張っているだろうか」と自問したとき、自信満々に
「YES」と答えられる日がどれくらいあるでしょうか。「ひとを批判する
前に、自分はどれだけ走っているだろうか」と自問せねばなりません。

私は調達・購買とかサプライチェーン関連のコンサルティングをしています。
そのとき、現場の方々と話すと「まあ、こんなもんじゃないですか」とか
「現実的にはこのていどが妥協点でしょう」といったセリフが出てきます。
そして、ときにやっぱり私も流されます。

しかし、やはり、ここには圧倒的な努力が足りない気がします。天才でさえ
苦闘しているのだから、凡人(私のこと)はやはり徹底的に努力せねばなり
ません。私は、このところ、実に8年も前に書いた自分自身の文章に励まさ
れました。以下がその文章です。

『私が見る限り、これまで活躍していた調達・購買担当者は設計部門出身か
転職組でした。おそらく、彼らの共通点は、通常の調達・購買担当者よりも
数倍凡人だったことです。秀才の集団に紛れ込んだ凡人だったために、活躍
し現状を変えてゆくことができたはずです。

ここでいう「凡人」とは、これまでの調達・購買業務のやり方に疑問を感じ、
普通のひとが納得してしまう程度の世渡りさえ習得せずに、一つ一つの常識
を「本当に正しいかどうか」を検証せざるを得ないひとのことです。それに
たいして、「秀才」とは組織の常識に上手く乗っかり自部門を防衛しようと
し、その場その場を上手くやり過ごしてゆけるひとのことです。』

『調達・購買とは、単にパソコンでサプライヤーと事務的なメールのやりと
りをすることではなく、その瞬間毎に自分の全てをぶつけ、自己の立てた仮
説の中からよりよい姿を模索・検証してゆくことだ、と私は思います。バイ
ヤーは、何かを変えようとする強烈な意識と、経験に基づく教養によって周
囲を変えてゆく存在だからです。』

(拙著「調達力・購買力の基礎を身につける本」より)

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